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映画や本やおいしいものについて

オリエント急行の殺人/アガサ・クリスティ

 

 

■あらすじ
イスタンブールとカレーを繋ぐ国際列車・オリエント急行。様々な職業や国籍の人々が乗り合わせていたが、雪で立ち往生した車内で乗客の一人である老富豪が刺殺される。死体には12か所もの刺し傷があり、強い怨恨による犯行かと思われた。しかし、乗客たちのほとんどは被害者と面識はなく、全員にアリバイがあった。一体、犯人は誰なのか。偶然乗り合わせていた名探偵ポアロが推理に乗り出す。

 
※ネタバレ含みます

kindleにて。1934年発表の作品。「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」とともに年末に行われていたkindleアガサ・クリスティセールで購入したもの。一度読んだ本はなかなか手に取らないのだけど、こういうセールがあると嬉しいなぁ。

国籍も職業も異なる他人同士が乗り合わせる中で起こった殺人事件。被害者はアメリカで起こった誘拐殺人事件「アームストロング事件」の主犯であることが判明する。強い恨みを抱かれていたことは間違いないが、果たして犯人は一体誰なのか…。ポアロの推理の結果、なんと乗客全員(正確には13人中12人)が犯人であり、それぞれが運転手や家庭教師や料理人等、アームストロング家に縁のある人々であったことが判明。それぞれ異なる強さや利き手で行われていた12か所の刺し傷は、全員が一度ずつ刺したものであったのです。…という、「アクロイド殺し」の語り手=犯人に告ぐ超予想外の犯人なのでした。

天誅とは言え殺人は殺人…と思いきや、ポアロは推理の際に二つの可能性を示唆します。ひとつは、前述の全員が犯人であると言う推理。もう一つは、犯人は停車中の電車から逃走したと言う推理。これまでのやり取りを目にしてきたコンスタンティン医師とポアロの友人である国際寝台車会社の重役・ブックにどちらだろうかとわざと問いかけて、二人とも後者を選ぶのです。謎は解けても、真実は乗り合わせた人々の胸の内に…。というエンディング。トリックに続きこちらも賛否両論ありそうですが、わたしは好きでした。

登場人物が大勢なので何が何やら…になるかと思いきや、とてもキャラが立っているので混同することもなく楽しめました。ドラゴミロフ公爵夫人がとっても魅力的…!そしてハバード夫人がなんとも悲しい。本作は中年女性になんとも言えない深みがあって良かったなぁ。

「イタリア人だからアイツは怪しい」とか「これだからアメリカ人は」と人種括りの皮肉が当然のように横行しているのもこの時代ならでは。このやりとりは後世に至るまで変えないで欲しいなぁ。そういう表現はそれらの時代特有のものとして大らかな気持ちで受け止めたいなぁと思うのです。

著者の孫によるまえがきで述べられていた通り、アームストロング事件はこの事件が元になっていた模様。結局事件はあやふやなまま終わってしまったようで、現実の事件はなんと後味の悪いものかと…。

 

■関連リンク
www.belmond.com今なお走るオリエント号。一度でいいから乗ってみたいなぁ。殺人事件は嫌だけども…。

アブノーマル・ウォッチャー@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
新居の下見に向かった新婚夫婦のライアンとクレア。不気味で異臭のする大家に不信感を抱いたが、念願の庭付き一戸建てを前に引っ越しを決定する。しかしその家はいたるところに大家により監視カメラが仕掛けられていた。カメラに気付くことなく日々を営む二人だったが、大家の行動は次第にエスカレートし…。


※ネタバレ含みます。

未体験ゾーンの映画たち3本目。じじいが新婚夫婦をおはようからおやすみまで熱く見守るサイコホラー。「キモい!」と「怖い!」が交互に押し寄せ、常に不快と不愉快と不安に支配され続ける90分間でした。

へ、変態だー!!!というレベルでは済まされない方向にぶっとんでいた。大家が徐々に箍が外れ常軌を逸していき、もう誰にも止められない…となる後半の盛り上がりも良かったんだけど、序盤から中盤にかけての不気味さと執拗さが最高でした。特にじじいが新妻の歯ブラシを舐めてから頬にゾリゾリするシーン、最悪ですね!今まで観たどんなグロい映画より不快指数が高かった。そんな妙な匂いに気付いた妻に対する夫の「人間の口の匂いなんてそんなもんだよ」という発言がアホすぎて和んだ。そんなわけがあるか。そして「そうなんかな…?」みたいな顔をする妻。そんなわけがあるか。

そんなアホ夫は妊娠中の妻の留守を狙って勤務先の美人アシスタントと浮気を開始。確かにクレアも我儘勝手なところはあったけれども、これは…と思っていたら、そんなところも執拗に見つめ続けていた大家。一体何を考えているのか分からないまま、徐々にアグレッシブに行動し始めます。家に訪れた不倫相手に襲いかかり、監視先の家の中央にある秘密の防音室に監禁。ここで初めて他者に対する攻撃性をあらわにするのですが、意外と動けるタイプであることが判明しめちゃくちゃびびった。
襲いかかる大家「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
襲われる不倫相手の女「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
観ていた私「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
陰からじっとり見つめるタイプじゃないのかよ!!!!

なんだかんだで旦那が頑張って妻とお腹の中の子を助けてハッピーエンドでしょ?…と思ったのですがそんなはずはなかった。最悪のさらに先のラストからの爺のいい笑顔でフィニッシュです。結局大家の狙いが最後までよくわからなかったのだけど、お腹の子供を守らねば?助けねば?俺のもの?という感情が歪んだ形で現れたということ…?この部分、あまり言及されていなかったように思うんだけどどうだっけな。はっきりしないので目的がわからなくて余計に怖い。

後味の悪さ含め、最初から最後までやりきってくれたなぁ!ちくしょう!最悪だ!(※褒め言葉)

 

アブノーマル・ウォッチャー [DVD]

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書楼弔堂 破暁/京極夏彦

 

文庫版 書楼弔堂 破曉 (集英社文庫)
 

■あらすじ
御一新から四半世紀を迎えた明治二十年代半ば。元旗本の高遠は、雑木林に囲まれた別宅で日々無為に過ごしていた。ある日、ひょんなことから近所に奇妙な書舗を見つける。書楼弔堂と名乗るその店は、古今東西の様々な書物が所蔵されており、店の主人はここは本の墓場であると言う。そんな奇妙な本屋に、高遠と同じ時代を生き、様々な悩みを持つ人々が探書に訪れる。

【1】探書壱 臨終
近所を散歩していた高遠は、軒に「弔」の一文字が書かれた半紙が貼られた奇妙な建物を見つける。おそるおそる足を踏み入れてみると、そこは夥しい数の本の納められた本屋だった。圧倒される高遠の前に、幽霊を見たのだという老人が現れる。そんな老人に店主が差し出した本とは。

【2】探書弐 発心
郵便局の前でおかしな書生に出会った高遠。著名な作家に師事しているものの、先進的な作風の師を持ちながら古い物とされている江戸会談を愛する自分に負い目を感じているのだと言う。そんな書生を弔堂へ導く高遠。書生にはどんな本が差し出されるのか。

【3】探書参 方便
以前勤めていた煙草会社が店を畳むことになり、送別会がてら元雇い主である山岡と共に女義太夫を観に行った高遠。帰り道に山岡の知人である矢作に出会い、矢作が心酔している師の話を聞かされる。弔堂を訪れると、偶然にも山岡の師である人物に遭遇する。

【4】探書肆 贖罪
近所の鰻屋を訪れた高遠は、そこで身なりのいい老人と、その老人に影のように付き従う奇妙な男に出会う。弔堂に行きたいという二人を案内した高遠だったが、老人はその男は死んでいるのだと言う。男の身に一体何があったのか。そして男の正体とは。

【5】探書伍 闕如
顔馴染みの書店員から高遠に会いたがっている作家がいると聞かされる。その作家は奇遇にも高遠が最近読んで感銘を受けた本の書き手だった。探している洋書があり、弔堂へ行きたいという作家の案内人をを買って出る。探していた本に巡り合えて喜ぶ作家だったが――。

【6】探書陸 未完
ひょんなことから猫を預かることになった高遠だったが、弔堂に本を売る客が猫を引き取ることに。猫の引き渡しついでに本の積み下ろしを手伝うことになった高遠。向かった先は、神社だった。依頼人の胸に秘めた思いとは。


※ネタバレ含みます

12月に発売されていたなんて知らなかった…!いつもkindleばかりなのですが、久し振りに紙の本です。京極さんの本は紙で読みたい。相変わらず奇数ページできちんと文章が終わっているページデザインはお見事。文庫でここまでするのは凄いなぁ。見惚れてしまう。

弔堂を訪れるのはいずれも幕末~明治初期に活躍した文化人や政治家など実在の人物。しかし、名前が明かされるのは物語が終わりを迎える時です。これは誰だろう?と楽しむのが面白かったのですが、本書の公式サイトではドーンと書かれていて驚いた。これを最後に目にするからいいような気がするんだけど、どうなのでしょう。好きな作家さんの本は公式情報さえも入れずにそのまま読むのが一番いいなぁと改めて思った次第。一話目から圓朝月岡芳年が登場して、芳年好きとしてはたまりませんでした。

フォークロアのように含みを持たせるような終わり方が、余韻があってとても良い。人の不安や焦燥を描いていながらも、最後にはそこにスッと光明が差すのも良かったです。歴史に名を残したあの人もこの人も、ただただ邁進して功績を遺したわけではなく、こんな風にぐるぐると思い悩んだりしたのかもしれないなぁなどと思ったり。

「この世に無駄な本はない」という言葉は本好きとしてはとても嬉しかった。本に貴賤はないんですよ…ほんとに…。ラノベも絵本も料理本にも情報は等しく存在していて、何かしらの感情を喚起させられると思うんです。あとこの作品では出版の移り変わりなんかも描いていて、そのあたりも面白かった!

同著者の他のシリーズのキャラクターも登場し、作者のファンとしても楽しめました。3話目の「方便」では巷説シリーズの不思議巡査が登場し、井上圓了に師事しているという設定。六話目の「未完」で登場する中禅寺輔氏は、どうやら百鬼夜行シリーズの中禅寺秋彦と関係がありそう。世代的に祖父なのでしょうか。その他、由良伯爵なんかも登場して、あちらのシリーズのファンとしても楽しめました。猫は石榴の祖先だったりして…?と思ったんですが、そこはインタビューで否定されておりました。さすがにないかぁ。

いわゆる高等遊民の高遠の気ままな暮らしが羨ましかった…。本を読んで無為に過ごすなんて最高の贅沢だと思うのだけど、そんな高遠もモヤモヤとした不安を抱きながら過ごしているようで、人間生きている限り悩みは尽きないのだなぁなどと思ってしまった。結局彼がどうなったのかは描かれていないけれど、「これで良し」と思えるような人生を歩んでいてくれたらいいなぁ。何かすごいことをしたり生み出したりして結果を残すだけが人生ではないと思うし、存在していれば人生だし、高遠にはそんな風に生きて欲しい…などと勝手ながら思ったり。

高遠が狂言回しとなるのはこの「破暁」まで。自作の「炎昼」は若いお嬢さんが語り手になるようです。小泉八雲柳田國男あたりが登場してくれたりしないかなぁ…と密かに期待しつつ、文庫化待ち。でも我慢できずにkindleで分冊を買ってしまいそう…笑。

■関連リンク

www.shueisha.co.jp公式サイト。各話で取り上げられる登場人物について明記されていますが、知らない方が楽しめる気がします。

www.sinkan.jp本作に関するインタビュー。これ面白い。

以下、登場した人物のwikiをメモがてら貼っておきます。

月岡芳年 - Wikipedia

泉鏡花 - Wikipedia

井上円了 - Wikipedia

勝海舟 - Wikipedia

岡田以蔵 - Wikipedia

巌谷小波 - Wikipedia

ヒトラー最後の代理人@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
終戦後、アウシュビッツの所長をしていたルドルフ・フェルデナント・ヘスの取り調べをするよう命じられたポーランドの判事・アルバート。収容所での出来事を淡々と語るヘスを前に、アルバートは「誰か止めなかったのか」と問いかける。


※ネタバレ含みます

「未体験ゾーンの映画たち2017」2本目。狭い取調室で対峙して淡々と語るシーンがほとんどを占める静かな映画。ストーリーにあまり起伏はなく、ヘスが口を噤んで手を焼くこともなく、本当に淡々と進行していきます。驚くほど静かな映画なのだけど、そんな無口な中にもアルバートの感情のゆらぎが滲み出ていた気がします。

ネタバレは避ける派なのだけど、今回はあまりにも前知識がなかったので事前にwikiを見ておきました。しかし、「ルドルフ・ヘス」と聞いてこっちのヘス(副総統)かと思っていたら、こっちのヘス(アウシュビッツ所長)でした。副総統のページに「ヒトラーの代理人」なる著書があったのですっかり勘違いしていたのですが、観ている内に違うぞ…と気付いて、上映後に改めて色々と検索した次第。お恥ずかしや。

BGMのほとんどない静かな映画だったのですが、アルバートが立ち寄ったバーで流れるピアノの月光の調べが印象的。夜、月明かりの中でヘスが手記を書き残すシーンとリンクするようでした。手記の内容はwikiにあるこちらの内容なのかと思われます。

「この命令には、何か異常な物、途方もない物があった。しかし命令という事が、この虐殺の措置を、私に正しい物と思わせた。当時、私はそれに何らかの熟慮を向けようとはしなかった。私は命令を受けた。だから実行しなければならなかった。」

「軍人として名誉ある戦死を許された戦友たちが私にはうらやましい。私はそれとは知らず第三帝国の巨大な虐殺機械の一つの歯車にされてしまった。その機械もすでに壊されてエンジンは停止した。だが私はそれと運命を共にせねばならない。世界がそれを望んでいるからだ。」

「世人は冷然として私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。けだし大衆にとってアウシュヴィッツ司令官はそのような者としてしか想像されないからだ。彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心を持つ一人の人間だったということを。彼もまた悪人ではなかったということを。」

wikipediaルドルフ・フェルディナント・ヘス」より 2016年6月25日 (土) 12:00 (UTC


「職務を遂行しただけ」というヘスと、上官からの命令に従って尋問を続けるアルバートとの違いは何なのかとふと思ってしまう。多分それはアルバート自身も感じていて、尋問の傍らに人との触れ合いを求めたりしたのではないかなぁ…。馬しか救いを求める相手がいなかったヘスとは違うのだと確認するかのように見えました。今までも何度も訴えられてきた言葉だけど「誰もがナチスのような集団になりえる」というのを、改めて思い出した次第。

エンドロールに響く電車の音は、あのアウシュビッツに続く線路なのではないかと思ったのだけど、どうだろう?誰しもあそこに向かってしまう可能性があるという警鐘のようにも聞こえて、なんともズシンと重いエンディングとなりました。

ヒトラー 最後の代理人 [DVD]

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FOUND ファウンド@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
ホラー映画が好きな11歳の少年、マーティ。学校ではいじめられて、家族仲も上手くいっていない。しかし、マーティにはある楽しみがあった。それは、兄がクローゼットに隠している生首を眺めること。時折入れ替わる生首を眺めながら過ごしていたある日、同級生の生首を見つけてしまう。どうやら、秘密を知られていることに気付かれてしまったらしい。

 

※ネタバレ含みます


「未体験ゾーンの映画たち2017」1本目。劇場は満員御礼!朝の時点でかなりチケットが減っていたので慌ててオンライン予約したのだけど、上映15分前に到着した頃にはすっかり完売でしょんぼりと劇場を後にする人も…。初日とは言え21時の回なのにすごいなぁ。

ひたすらホラーでスプラッタな感じかと思いきや、家族や学校と言った少年の抱える問題も取り上げられていて、きちんとストーリーのある作品でした。イヤアアアおにいちゃんやめてええええ首を切らないでええええギャアアアアアみたいな話ではないです。そっち方面に期待を込めて行くとがっかりしてしまうと思う。ホラーでスリラーでサスペンス、そしてヒューマンドラマでもある、なんとも不思議な作品でした。魅力的。

開始直後の弟のモノローグの一言目でググッと引き込まれての103分間。決してすっきりした作りではないけれど、そこもまた不安定なこの兄弟を表すのに適していたんじゃないかなぁと思えてしまう。そして何より、ラストのワンカットが秀逸。「あっ」と思ってふっと終わってしまう。余韻も何もかも掻き消すような一瞬のショットのインパクトが凄い。

兄の部屋で見つけたホラービデオ「HEADLESS」を友人と観るシーンがあるのだけど、これがタイトルの通りの首切り殺人の話。本作で最もゴア描写の詰め込まれたシーンだったと思います。仮面を被った殺人鬼が女性を惨たらしく殺害し、乳房を切り落としてしゃぶりつき、首を斬り落として生首ファックという狂気っぷり。(ところでこの映画の後に砂嵐になるのだけど、兄によるスナッフムービーが始まるんじゃないかと身構えたのはわたしだけだろうか…)そんな映像からしばらく後、マーティを襲うのは本物の凶行。それらはこれまで観たホラー映画のように映像として眺めることはできないけど、確実に今家の中で起こっている…という撮り方が上手い。ところでこのシーン、全裸の兄が真っ黒の影のように塗り潰されていたんですが、元の映像ではフル勃起らしいです。そっちの方が狂気マシマシだったのだけど、さすがに日本の劇場では無理だったか…。でも某ドラゴンタトゥーの女のような粗い修正じゃなかったので不自然さはなく、知らなかったら気にならないレベルでした。

舞台は1980年代なのですが、この時代ではなく現代設定だったらかなり違う雰囲気になった気がする。あの時代設定だったからこそ描けたストーリーだと思います。ノスタルジックなビデオ屋や映画館や古い型の車が鬱屈や狂気を際立たせていて、兄がより一層哀しい存在に見えた。弟はホラー映画の世界に憧れを抱いていたけれど、本当にそちら側に行ってしまっていた兄のことは結局理解できなくて受け入れられなくてただただ恐怖でしかなくて、それでも兄は兄なりに弟を想って…という歪な感情が、怖いというより悲しい。まさかこの映画でこんななんとも言えないせつない気持ちになるとは思わなかったです。

製作費わずか8000ドル、役者も監督もほとんど無名で、そんな制作環境だったからこそ作り出せた作品なのではないかなぁと思います。いずれにせよ、洗練された脚本やこなれた演技の名優では作り出せなかったのではなかろうか。映画館で観れてとても嬉しいです。いいものを観た!未体験ゾーンは毎年こういう出会いがあるので嬉しいです。

遅ればせながらわたしの今年の未体験ゾーンが幕を開けました。今年も楽しみだー。たくさん観るぞう!。

FOUND ファウンド [DVD]

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■関連リンク

未体験ゾーンの映画たち2017

2017年2月3日~2月17日まで青山シアターにてオンライン上映される予定とのこと。

 

 

www.youtube.com作中に登場するホラー映画「HEADLESS」。本作のDVD特典になった後、2015年に単発でリリースされたらしいです。気になる。

 

セブン・サイコパス [DVD]

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 サイコパスのせつなさという意味でなんとなくこちらの映画を思い出したりもした。こちらはだいぶポップだけども。

パージ:アナーキー@VOD

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■あらすじ
一年に一度、殺人含むすべての犯罪を認めるパージ法。今年もパージの日を迎えたが、貧困家庭でシングルマザーとして家族を養うエヴァの家に謎の男たちが押し入る。逃げ出したエヴァと娘は、パージを行うために完全武装した男・レオに助けられ、さらには車が故障してダウンタウンに放り出された夫婦とも合流する。果たして五人は無法地帯となった街で朝まで逃げ切ることはできるのか。そして、レオのパージの理由とは――。

 ※ネタバレ含みます

スパのVODにて。一作目「パージ」に続けて鑑賞。前作は堅牢な警備システムに守られた自宅という密室の中でのパージでしたが、その一年後を舞台にした今作は広大な街の中でパージが繰り広げられます。街でのサバイバルや友人宅でのパージ合戦を経て、パージオークションまで体感できちゃう恐怖のパージツアーが開幕です。何故わたしはリラックスすべきはずのスパでパージを…?と思いつつも面白かったです。

街に出て色々な光景を目にする分、前作より狂った奴らが盛りだくさん!歩道橋の上から喚きながら銃を乱射するファットなレディやら、車に乗りながら火炎放射で人々を焼き殺す肉屋スタイルのクレイジーな男やら、どいつもこいつもヒャッハーと輝いておりました。とんでもねえ。アクション要素も前回よりかなり増えていて見応えがありました。

前作は富裕層である家庭からの視点でしたが、今回は弱者側からの視点へと入れ替わり、前作でチラリと匂わせられていたパージ法の狙いも明らかに。パージは治安の悪化と公費支出の原因になる貧困層の粛清を目的としており、そのために軍まで動員されていたことが判明。その目的に気付き反対声明を出す者も現れ、反抗組織も結成。その中には前作のパージで追われていたあの男の姿も…(あの人だよね?見間違いだったらすみません)

パージを楽しむ富裕層の獲物になる貧困層という構図が非常に怖い。余命いくばくもないおじいちゃんが10万ドルと引き換えに自分の命を売るシーンがなんともせつなかった。捕まえられた人々が20万ドルでオークションにかけられて金持ちたちの『狩り』の獲物になるものの、武器を取り上げて反撃!のシーンはシビれた。


レオのパージのくだりは最後に駆け足に描かれてしまってちょっと詰め込み過ぎ感もあったのだけど、巡り巡って救われる、ということでいい具合のオチがついたなぁと。

第三弾も予定されているそうなのだけど、今度は黒幕VS反政府組織になったりもするのかなぁ。とても気になります。今度は劇場で観たいぞ。

 
■関連リンク

パージ (字幕版)

パージ (字幕版)

 

 前作。パッケージはこっちの方が怖いのな…。

パージ@VOD

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■あらすじ
年に1度、12時間だけ全ての犯罪を合法とする法律「パージ法」の定められたアメリカ。セキュリティ会社に勤務するジェームズは最先端のシステムで保護された自宅で家族と安全に過ごしていたが、息子が追われていた男を助けようと家に招き入れてしまう。男を追っていたパージ賛成派の若者たちに彼を引き渡すよう求められ家を取り囲まれるが、男はどこかに姿を隠してしまい――。


スパのVODで鑑賞。もう一度言いますがスパのVODで鑑賞。何故スパでこの作品を…?正気か…?リラックスとは何なのか…?そんな鑑賞環境だったものだから、パージ開始と同時に離れた席の誰かからの音漏れで笑点のテーマが聞こえて来て笑った。奇跡か。若干愉快なスタートを切ってしまったけれど、これがめちゃくちゃに面白かった。

夜19時から朝の7時まで、サイレンと放送で事務的に淡々と始まる殺戮の12時間。この時間に全ての怒りや暴力を吐き出すことにより、アメリカの犯罪率は大幅に低下していた――という設定の時点で面白い。パージで使用できる武器の危険度は決められており(おそらく銃まで?それ以上の兵器はNGのようです)、パージの時間は救急や消防も出動不可能とのこと。細かい矛盾を上げたらきりがないのだけど、「そういう設定なんだなオッケー!」と割り切って観た方が楽しめるかと。こまけぇこたぁいいんだ!パージなんだ!!考えるな感じろ!!!

娘の彼氏の侵入を察知できない時点で警備システムがポンコツすぎるのでは…?本当に大丈夫なのか…?と思っていたら、幼い息子一人であっさり解除できてしまってホラもうやっぱりダメなやつじゃん!!そして招かれざる客が一人、また一人と現れ、ついにはパージ賛成派の若者に取り囲まれてしまう。この集団のリーダー格の男の表情がめちゃくちゃ不気味で、それがインターホンのモニター越しに大写しになるもんだから地獄です。そしてパージの正装(仮面をつけて、女子は白いワンピースを着る)姿で家の周りをキャッキャウフフと遊び回る絵面が不気味すぎる。

「我々は高い水準の教育を受けたアメリカ市民である」などと言いながら凶行に耽る(とは言えパージなので法律に反しているわけではない)若者たちと、彼らが「生きる価値のないホームレス」として狙う貧困層の青年、どちらを選択すべきか迫られた家族のとった行動は…というお話がメインなのだけど、後半で「ここでお前が!?」「ここでお前らが!?」が畳み掛けるように起こってスピード感が凄まじい。

そして最後、朝の陽射しの射す食卓である人の怒りと侮蔑を込めた一撃が一番重かった気がする。この後に出る文章の後味の悪さがすごく良かった。良かったというのも変だけど、作品に相応しいオチだったと思う。


■関連リンク

 続編。なんと続編も配信されていたのでこのあと続けて観ました。