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顔のないヒトラーたち@新宿武蔵野館


『顔のないヒトラーたち』予告 - YouTube

 

■あらすじ

交通事故の裁判ばかりの毎日を送っていた新米検事・ヨハンの元にアウシュビッツで親衛隊員だった男が教師として働いているとの密告を受ける。上司や同僚の 制止を潜り抜けて、ジャーナリストのグルニカやユダヤ人のシモンと共に調査を行う。しかし終戦からは十年以上が経過し、誰もが当時の出来事を黙殺しようと していた。調査は難航を極めるが、徐々に証言者や証拠を得て行く。1968年のフランクフルト・アウシュビッツ裁判が開かれるまでの物語。

 @新宿武蔵野館にて

あらすじの通り、一人の青年が自国の過去の罪を問う裁判を開くまでの物語。その結末は本編では描かれていないけれど、現代の歴史認識がその答えとなります。ちょうどうちの母が1958年生まれで、この物語が動き始めるのと同時期なのですが、その頃はまだナチスのしてきた事が知られていなかったのかと思うと驚きです。と言うと歴史に関してあまりにも無知すぎてお恥ずかしいのですが、教科書に書いてあるだけでしか知らなかったんだなーと改めて。

ストーリーは勿論、登場人物たちもとても良かった。主人公は正義感の強い若エリート青年なのだけど、決してなんでもできるヒーローではない。時に権力に屈しそうになったりもするし、酔っぱらって醜態を晒したりもする。事務官の女性はバリキャリという感じでもなく、検察局というより町のクッキー屋さんの方が似合いそうな優しいおばちゃんという風情なのですが、陰で一度涙を零してからは淡々と職務に取り組んでいてすごく格好良かった。

そして主人公をサポートする同僚が嫌味な奴で、はじめは嫌々調査を進めるんですが、徐々に真剣になっていく過程もよかった。メインストーリーとして語られはしないのだけれど、台詞の端々や態度が徐々に変わっていくのがすごく良かったよう。一度心が折れてしまった主人公が逃げ出すのだけども、戻ってきたら「誰にだって過ちはある」とあっさりと認めてくれるシーンがすごく良かった。しかもその直後にいつものノリで「俺以外にはな」と軽口を叩くんですが(※台詞はあやふやだけど、こんなニュアンスだったはず…)、それまで話の展開が張りつめていただけに、ここのジョークでなんだかホロリときてしまったよ。

あと、アウシュビッツに収容されていた人々と、アウシュビッツに関わっていた元軍人がそれぞれ同じ部屋で証言/聴取をされるんだけど、それぞれの人々を一人ずつ正面から捉えたシーンがすごく印象深い。淡々と語る人、苦悶の表情を浮かべる人、狼狽する人…と、様々な表情が真正面から映し出されていて、この件に関わった全ての登場人物が一人の人間であることを表しているようでとても良かったです。

いやはや、本当に良い映画だった…。丁寧に作り込まれた良作です。作品そのものだけでなく、邦題や翻訳に至るまで真摯に作られていて好印象。良い作品なだけに、公開期間が短いのが勿体ないなぁ。ぜひとも観ていただきたい…!