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慟哭/貫井徳郎

 

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

 

 ■あらすじ
凄惨な幼女誘拐殺人事件を追う捜査一課長・佐伯。一向に犯人を検挙出来ず、操作は行き詰ってしまう。犯人を挑発して煽った佐伯に、ついに犯人が動く。
その一方で描かれる、ぼんやりと廃人のように生き、新興宗教に嵌っていく男・松本。やがて彼は教団の奇妙な教えにのめり込んでいってしまう。
全く異なる性質の人物の物語が交互に綴られ、やがてその物語が交差する――

kindleにて

 この方の文章はすごく丁寧で好きなのですが、デビュー作である本作もやっぱり読みやすかった。扱っているテーマは非常に重いものの、じっくり読めてとても良かった。なんというか物語に対して真摯な文章でとても好きです。

1994 年が舞台ゆえ、携帯電話が出てこなかったりSuicaがないので切符で電車に乗ったりと、たった20年前なのにものすごく昔の話のように感じてしまった。 そう言えばオウム真理教が話題になっていたのもその頃だったなーと思ってググってみたら地下鉄サリン事件が1995年でした。執筆されたのは1993年な ので、数年前からマスコミに取り上げられていたことを加味すると、やはりあのあたりをモデルにしていたのかなぁ。

謎解きという意味ではあ らすじでもかなり煽られていたので、穿った目で見てしまってトリックというか話のつくりはすぐに分かってしまったものの、ラスト一行の後味の悪さでウッと なれてとてもよかった。いや、よくはないんだけど、叙述トリックに目を奪われていたら一番大事なところを見落としていたというか、足を掬われたような。そして、これだけの話をあの一行で収束させてしまう書き手の勇気がすごい。