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新釈 走れメロス 他四篇/森見登美彦

 

 

■あらすじ
近代日本文学の名作を現代風にパロディした作品を5本収録。いずれも京都で暮らす大学生が中心となった物語。

 

【1】山月記
中島敦山月記』より。大言壮語を吐き続けながら留年を繰り返し、小説を書き続ける大学生・斎藤秀太郎の話。やがて時は流れ、山におかしな人間が出るという噂が立つ。大文字焼きの夜に山に向かった警官たちは、ついにその正体を知る。

 

【2】藪の中
芥川龍之介『藪の中』より。文化祭で上映された自主制作映画は、現実では既に別れている役者の男女が寄りを戻すという脚本だった。監督は女優の現在の恋人。一体どのような目的があったのか。映画を観賞した者、主演女優、主演男優、そして監督のさまざまな視点から語られる。

 

【3】走れメロス
太宰治走れメロス』より。自堕落な大学生・茅野の所属する「詭弁論部」の部室が「図書館警察」奪われる。図書館警察の長官に部室と引き換えに無理難題を突き付けられた芽野は姉の結婚式を追えたら必ず戻ると告げ、友人である芹名を人質に置いて大学を後にする。しかし気が変わった芽野は芹名を放置して逃げることにする。そんな芽野の態度に憤慨した長官が追っ手を仕向ける。芽野は時間までに逃げ切ることができるのか?

 

【4】桜の森の満開の下
坂口安吾桜の森の満開の下』より。小説家を目指していたうだつがあがらない男が、美しい女性と出会う。彼女の言うままに執筆を続けると瞬く間に人気作家になっていくが、やがて虚しさを覚えはじめてしまう。

 

【5】百物語
森鴎外『百物語』より。作者である森見登美彦自身を主人公に据え、前述の四話の登場人物に展開する物語。暇な大学生である主人公は、ある夏の日に百物語をしようと友人に誘われる。

京都に暮らす愛すべき馬鹿者達の話。同じ場所を舞台としているので、各話の登場人物や場所がリンクしていくのも面白かった。詭弁論部や図書館警察やゲリラ演劇等々、これまでの森見作品で姿を覗かせていた組織やイベントが出てくるのでこれまでの本を読んでいればより一層楽しめるかもしれない。

 

個人的に好きだったのはトップバッターの「山月記」!どの学校にも一人はいるであろうモラトリアムに生きる自由人を面白可笑しく描きながらも時間の流れに取り残された姿というのがなんとも悲哀に満ちている…。「藪の中」も人間の(この場合は監督を努めた男の)常人には理解しがたい心情を描いていて面白かった。

 

走れメロス」は突き抜けたバカバカしさがすごかった。バカバカしい。ものすごくバカバカしい。褒め言葉です。すこし前時代的な雰囲気のドタバタ感がこの作者さんらしいなーと。四畳半神話大系を思い出しました。

 

桜の森の満開の下」「百物語」は京都独特の雰囲気と相俟って、この舞台じゃないと描けない話だなーと。この作者の本を読むたびに京都に行きたくなってしまうー。桜の季節の京都には行ったことがないので、一度行ってみたいなぁと改めて。

 

恥ずかしながら原作をきちんと読んだことがあるのは「山月記」と「百物語」のみ。「走れメロス」は教科書で読んだきりだったのだけれども、「桜の森の満開の下」、すごく気になる。坂口安吾は「白痴」がすごく好きだったし読んでみたいな。