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文福茶釜/黒川博行

 

文福茶釜

文福茶釜

 

 

■あらすじ
5編の短編を収録。

【1】山居静観
美術雑誌「アートワース」副編集長の佐保の元に、美術品を利用した企業の裏金作りが舞い込む。小遣い稼ぎがてら手を貸す佐保だったが、著名な水墨画を見つけ、相剥にしてひと儲けしようと企てる。

【2】宗林寂秋
京都市内で表具屋を営む牧野は、本職である表具師の他に書画の売買の仲介も行っていた。ある日、病に倒れた顧客の息子から骨董品を整理するため鑑定を依頼される。その中に大寂物の茶碗と茶杓を見つけ、欲が出た牧野は自分が買い取って転売しようと目論む。

【3】永遠縹渺
具象彫刻の老舗「フォルムギャラリー」の社長・尾山が、とある彫刻家の息子に父親の作品を売りに出したいと依頼される。赴いたアトリエで、有名彫刻家の紛失したはずの石膏像を見つける。石膏を元にブロンズ像の量産を目論むが、

【4】文福茶釜
昆布問屋の蔵に、大阪民具研究会なる初出し屋が訪れ、老婆を騙して茶釜を奪い去ってしまう。元禄年代の名物である茶釜を取り返したいと老婆の息子から依頼を受けた佐保は、漫画原稿の贋作を作り出して初出し屋をおびき出そうと計画する。

【5】色絵祥瑞
神戸の不動産会社会長・久家は、陶磁器展覧会に陶磁器の出品を依頼される。仲介者が美術ゴロであることに加え、同じ展覧会に新興宗教の教祖の収蔵品が大量に出店されることを危惧し、佐保に岩崎の企みを突き止めるよう調査を頼む。

古美術・骨董界の化かし合いを描いた短編集。札幌旅行中にさっくり読了。騙し騙され奪い奪われ、でもそんな中にもプロとしての矜持がある…という独特の業界 感が興味深かったです。プロ同士の騙し合いはアリ、素人に売りつけるのはナシ。そんな暗黙のルールがあるのも任侠の世界みたいで面白かった。

相剥ぎ(水墨画を二枚に剥ぐ)なんてものがあるのは初めて知りました。あと、ブロンズ像の分割線についても。業界の裏を描いていて、こんなことまで知ってい いのかと思ってしまうレベル。ダークなんでも鑑定団というかなんというか。いやーこんな世界もあるんですねえ、としみじみ。

全編通して台詞がコテコテの関西弁で綴られるので軽快…と思いきや、やたらと読むのに時間がかかってしまった~関西弁難しい!笑