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合本 64(ロクヨン)/横山秀夫

 

 ■あらすじ
刑事部から広報部へ異動になった三上。人事に不審感を募らせながらもマスコミとの間に立って職務に励んでいたある日、一人娘が失踪してしまう。娘の捜索と引き換えにキャリア組に手綱を握られ、昭和64年に起こった誘拐事件・通称 64(ロクヨン)の被害者の父親に警察庁長官訪問の承諾を得てくるよう指示される。広報部の中では報道との衝突が起き、警察内もキャリアと地方での諍いが燻り始める。そんな時、時効間近の64が動きを見せ始め――。

 前半は警察内部や広報部での描写が多く、被害者等の本当に守るべき人を置き 去りにしての争いに夢中の人々にげんなりしてしまったのだけど、後半は一気読みでした。めっちゃくちゃ面白い。前半の燻り具合があったからこそ後半が生き たというか、視界が開けて行くような感覚が爽快!特に第二の誘拐事件が起こってからのスピード感と、これまでの伏線回収は素晴らしいです。

蔵前による銘川に関する調査のくだりあたりからもう涙腺がやばかった。ランチ中に読んでたのに涙目になってしまった…。第二の誘拐事件からの怒涛の展開は緊張しっぱなしで、あれだけのテンションを長い間維持する筆力がすごい。この本は凄い…!

関係者一人一人の人となりが丁寧に描かれているので、どんな矜持を持って生きているのかが垣間見えるのも面白かった。軽そうに見えて職務に忠実な諏訪が格好良かったし、後半に広報マンとしてぐっと成長するくだりは熱かった…!諏訪だけでなく、今回の事件を契機としてそれぞれが自分の職務に向き合って、一歩を踏み出す様子がぐっと来る。その一歩は他者から見ればごく小さな変化かもしれないのだけれど、本人にとってはすごく大きなものだったりする…というのが 丁寧に描かれていて、とても良かったです。

もうとにかく面白い。映画版はどんな感じなのか気になるけど、今はこの原作の余韻だけで十分かなぁ。