sasame-goto.

映画や本やおいしいものについて

ゴルゴタ/深見真

 

ゴルゴタ (徳間文庫)

ゴルゴタ (徳間文庫)

 

■あらすじ
陸上自衛隊の特殊作戦群に所属する自衛官の真田の妻と義母が惨殺される。妻の腹の中に いた胎児までが引きずり出され殺された凄惨な事件の犯人は、未成年の少年たちだった。加害者に下ったのは無罪に等しい保護処分のみ。それからしばらく後、凄惨な拷問を受けた加害少年の遺体が発見される。社会から姿を消した真田は、復讐の鬼と化していた。

日本唯一の実戦部隊で最強を誇る男が復讐に転じたら――と いう話。真田が身を挺して守り続けてきた市民や司法や日本そのものに対する絶望と、妻への深い愛情が丁寧に描かれていて苦しい。単なる復讐譚ではな く、少年法や司法の腐敗など、現在の日本の抱える問題についても考えさせられる。…というとなんだか堅苦しくなってしまうのだけど、単純に滅茶苦茶に面白い。スピード感と緊張感に溢れる展開だけど、人間的な葛藤も丁寧に描かれていて、さらには伏線も綺麗に回収して〆るラストはお見事。

加害少年はもちろん、それを守ろうとする警察さえも殺していく真田。淡々と実行される復讐のシーンは凄惨でありながら何故だか美しく、讃美歌でも流れていそう。ただ殺すだけでない真田の復讐の方法は見事で、あれほど完璧な復讐劇は存在しないのではないかと思うほど。さらに、真田の「対象の区別の付け方」独特の理論に基づいていて、決してただしいことではないと分かっていながらも納得してしまう。こんなに理路整然とした狂気が実在するのかと。

警察側の人間が「そんなことしても被害者は喜ばない」とか「復讐は何も生み出さない」とかそんなお決まりのことを口にしないのがとても良かった。きっかけとなった事件を前にしては、そんな言葉はあまりにも陳腐すぎる。警察側である長間は真田を止めるべき立場でありながらも、真田の思考を少なからず理解していく様がこの話に厚みを持たせていたなぁ。最後の賞賛とも皮肉とも取れる言葉がとても良かった。

kindle版だったので表紙はあまり意識していなかったのですが、後から見てみたらすごく意味のある表紙だったのね…。これは紙の本で読めばよかったなぁ。ずっとあの表紙を手の中に収めながら読み進めて、最後にふとそれに気づいた時にすごくゾッとしそうだ。