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沈黙博物館/小川洋子

 

沈黙博物館 (ちくま文庫)

沈黙博物館 (ちくま文庫)

 

■あらすじ
小さな村に招かれた博物館技師が依頼されたのは、死んだ者たちの形見を集めた博物館を作ることだった。依頼主の老婆とその養女たちとともに、技師は形見の収集を開始する。耳縮小手術の専用メス、シロイワバイソンの毛皮、でたらめな文字列がタイプされた紙…死者が出る度に様々な形見を集めていたある時、村で連続猟奇殺人事件が起こる。


kindleにて。

タイトルの通り、とても静かなお話でした。博物館、遺品、山の奥の修道院…と魅力的なモチーフが次々に描かれているのですが、そのどれもがとても静かで一歩下がったところに存在しているような、作中で使われる言葉で言えば「思慮深く」存在しているのがとても美しかった。小川洋子の描くこういう世界、すてきだなぁ。

登場人物たちにも名前はなく、それぞれを職業で呼ぶような独特の距離感を保っているのだけど、決してよそよそしくならず寄り添っているのがとても良かったです。罪さえも包み込むように生きていく人たちは、独立した倫理観を持って生きているようで、別世界の人々のようでした。でも、シロイワバイソンも耳縮小手術も形見を展示する博物館も、もしかしたら世界のどこかにあるのかもしれないと思えてしまう。

十分な文字数で綴られているのに非常に寡黙な、なんとも不思議な作品でした。