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パリ、テキサス@早稲田松竹


「パリ、テキサス」Paris,Texas(1984西独・仏)

 

■あらすじ
4年間の失踪を経て、荒野に倒れていたところを保護されたトラヴィス。弟が迎えに行くが、トラヴィスは口を開こうとせず、失踪の理由も何をしていたのかも語ろうとしない。ようやく呟いた言葉は「パリ、テキサス」だった。空白の4年間、トラヴィスの身に何があったのか。


男の哀愁とその家族を描いたロードムービー。タイトルだけ知っていた作品で、初めての観賞となりました。ふんわりとした記憶で「テキサスで見つかった記憶喪失の男がパリ(※フランスの方)を目指すロードムービー」だと思い込んでいたのだけど全然違った。記憶の改竄おそろしい…笑 タイトルの「パリ」もフランスのパリだと思っていたのですが、テキサス州のパリのことだったのですね…!勘違いもおそろしい。笑

オープニングが最高。ざらついた地面、高すぎる空、無骨なギターの調べ。それだけでトラヴィスという男を描いているかのようで、あっと言う間に映画館の中が物語の空気に満たされていくのが心地良い。映画っていいものですね…しみじみ。BGMがギターだけというのもすごく良かった。この音色が本当にトラヴィスにぴったり。

ストーリーとしてはあまりに不器用なトラヴィスにやきもきすることも多かったのだけど、息子のハンターとの距離を縮めていく様は微笑ましかった。トラヴィスが学校へハンターを迎えに行くシーンでは、失敗や空回りしつつもようやく一緒に帰れて、道路を挟んだ歩道でお互いを真似ながら歩くシーンが可愛かったです。不器用なスキップかわいすぎか…!でも、前に進みながらも違う道を歩いていると解釈すると、少しせつないのだけど。それにしてもハンターくん、美少年だったなぁ。さらさらの金色の髪と少し小生意気な語り口調が可愛い。

ジェーンを探すトラヴィスとハンターが「男親と息子」という感じで和んだ。トランシーバーのくだりや、荷台で食事をするシーン(クリームチーズ+ポテトがすごくおいしそうだった…!)は冒険感があって良かったなぁ。赤い服もお揃いのようで可愛かった。(ところで最後のジェーンとのシーンは二人とも緑色の服だったのは意味があるのだろうか。補色…?)

そして元妻ジェーンの美しいこと!目元と唇がとってもきれいで見惚れてしまう。トラヴィスの語った過去の出来事を経てから、あの小部屋での職業に就いたのだと思うとなんだか苦しくなる…。そしてこの小部屋の「どちらかに灯りが向いているともう片方の姿が見えない」という設定がお見事。まさにこの二人じゃないですか…。

この作品、いわゆる「悪い人」がいなかった気がする。弟夫妻はトラヴィスを責めることはしないし、ハンターが同級生に「父親が二人ってなんだよ」なんていじめられることもないし、ジェーンの勤め先の黒服の男がトラヴィスを摘まみ出したり揉めたりすることもない。だから、ラストは歩いて行くトラヴィスに、「待って」と思わずにはいられなかった。世界は意外と優しいのに。でも、妻と息子への愛ゆえに彼の出した答えなんだよなぁ…。

パリ、テキサス (字幕版)