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オリエント急行の殺人/アガサ・クリスティ

 

 

■あらすじ
イスタンブールとカレーを繋ぐ国際列車・オリエント急行。様々な職業や国籍の人々が乗り合わせていたが、雪で立ち往生した車内で乗客の一人である老富豪が刺殺される。死体には12か所もの刺し傷があり、強い怨恨による犯行かと思われた。しかし、乗客たちのほとんどは被害者と面識はなく、全員にアリバイがあった。一体、犯人は誰なのか。偶然乗り合わせていた名探偵ポアロが推理に乗り出す。

 
※ネタバレ含みます

kindleにて。1934年発表の作品。「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」とともに年末に行われていたkindleアガサ・クリスティセールで購入したもの。一度読んだ本はなかなか手に取らないのだけど、こういうセールがあると嬉しいなぁ。

国籍も職業も異なる他人同士が乗り合わせる中で起こった殺人事件。被害者はアメリカで起こった誘拐殺人事件「アームストロング事件」の主犯であることが判明する。強い恨みを抱かれていたことは間違いないが、果たして犯人は一体誰なのか…。ポアロの推理の結果、なんと乗客全員(正確には13人中12人)が犯人であり、それぞれが運転手や家庭教師や料理人等、アームストロング家に縁のある人々であったことが判明。それぞれ異なる強さや利き手で行われていた12か所の刺し傷は、全員が一度ずつ刺したものであったのです。…という、「アクロイド殺し」の語り手=犯人に告ぐ超予想外の犯人なのでした。

天誅とは言え殺人は殺人…と思いきや、ポアロは推理の際に二つの可能性を示唆します。ひとつは、前述の全員が犯人であると言う推理。もう一つは、犯人は停車中の電車から逃走したと言う推理。これまでのやり取りを目にしてきたコンスタンティン医師とポアロの友人である国際寝台車会社の重役・ブックにどちらだろうかとわざと問いかけて、二人とも後者を選ぶのです。謎は解けても、真実は乗り合わせた人々の胸の内に…。というエンディング。トリックに続きこちらも賛否両論ありそうですが、わたしは好きでした。

登場人物が大勢なので何が何やら…になるかと思いきや、とてもキャラが立っているので混同することもなく楽しめました。ドラゴミロフ公爵夫人がとっても魅力的…!そしてハバード夫人がなんとも悲しい。本作は中年女性になんとも言えない深みがあって良かったなぁ。

「イタリア人だからアイツは怪しい」とか「これだからアメリカ人は」と人種括りの皮肉が当然のように横行しているのもこの時代ならでは。このやりとりは後世に至るまで変えないで欲しいなぁ。そういう表現はそれらの時代特有のものとして大らかな気持ちで受け止めたいなぁと思うのです。

著者の孫によるまえがきで述べられていた通り、アームストロング事件はこの事件が元になっていた模様。結局事件はあやふやなまま終わってしまったようで、現実の事件はなんと後味の悪いものかと…。

 

■関連リンク
www.belmond.com今なお走るオリエント号。一度でいいから乗ってみたいなぁ。殺人事件は嫌だけども…。