■あらすじ
八王子で起きた凄惨な殺人事件。現場には被害者の血で描かれた「怒」の文字が残されていた。容疑者の山神一也が整形を繰り返しながら逃亡を続け一年が経過した頃、東京・千葉・沖縄、それぞれの場所で山神によく似た男が現れる。男たちを取り巻く人々は何を想うのか。そして、男たちの正体とは。
※ネタバレ含みます
「淵に立つ」と共に二本立てで鑑賞。淵に立つ鑑賞後の時点でかなりズドーンと来ていたのですが、怒りでさらにズドーンと突き落とされてわたしはもうだめです…ヨロヨロ。
東京・千葉・沖縄それぞれのパートから成る物語なのだけど、それらの登場人物が交錯することは一度もなく、異なる物語が描かれていきます。「逃亡中の犯人に似た男」がいる以外は何の接点もない話なのに、きちんと一本の物語として纏められているのが凄い。さらにそれぞれの物語によって「同性愛」「沖縄米軍」「発達障害(作中で明言されていなかったけど愛子はそうなのだろうな、という印象)」という現代社会においてなかなか言及できないテーマを描いているのだから、さらに凄い。これほどの厚い物語を2時間半という尺に纏め上げたのに、不足を感じさせないのもまた凄い。もうとにかく凄い。
事件そのものは世田谷一家殺害事件に似ているような気がした(殺害後に飲食をしていた点など)のですが、容疑者の逃走劇や整形のニュースがリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の市橋容疑者に酷似していたので、途中で犯人は沖縄なのだろうなーと。一瞬、直人→哲也→信吾の順で整形していったのかな、などと思ってしまったのだけど、声帯は変えられないからそれはありえなかった。笑
俳優陣の演技がとにかくすごい。ちょい役で高畑充希が出てきたのを見てキャスティングの本気を感じました。宮崎あおいの澄んだ目も、森山未來の怪演も、綾野剛の儚さも、渡辺謙の背中も、何もかもが素晴らしかった。
ラストにはただただ圧倒されて、エンドロールが始まったと思ったらエンディング曲がチェロの二重奏で、よりいっそう響きます。一つのカット、一つの音、全てにおいて本気で作り込まれた作品でした。
■関連リンク
原作本。登場人物の心情等はこちらの方が丁寧に描かれているということなので、こちらも読んでみたい。