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LION/ライオン ~25年目のただいま~ @渋谷シネパレス


『LION/ライオン ~25年目のただいま~』予告編

 

■あらすじ
インド西部の田舎町に暮らす5歳のサルーは、兄の仕事を手伝おうと出かけた先で誤って回送列車に乗り込んでしまい、自宅から1600km離れたカルカッタに辿り着く。言葉も通じず、自分の住所も上手く言えないサルーは孤児となり、施設に収容されてしまう。オーストラリアに暮らす夫婦の元に養子に出されるが、故郷への郷愁は拭えないサルー。やがて、わずかな記憶と当時のデータから距離を算出し、Google Earthを用いて生家を探し始める。


※ネタバレ含みます

公開7週目にしてようやく観に行けました。決して派手ではないけど、じんわり考えさせられるとても素敵な作品でした。

5歳のサルーが迷子になってしまうシーンが今思い出してもとても辛い。帰れないまま25年の歳月が流れてしまうのだと分かっていても、なんとか帰れるように祈らずにはいられなかったです。あんなに小さい子が助けてと叫んでいるのに誰も手を差し伸べてくれなくて見てられない…。当時のインドの人々が冷たいとか酷いというより、それほどまでに社会が困窮していたのだなぁと思うとやるせない。

経済的な貧困の中では人の心もそうなってしまうよなぁ…などと思ったりした(結局サルーを警察に連れて行ってくれたのは、真っ白なシャツを着てスプーンを使って食事をするハイソな男性だったし)。そして、サルーがようやく迷子として新聞に載せてもらえたのに、母親は文盲で新聞を買う余裕もない生活で気付いてもらえなかったというのもまた辛い。じゃあどうやってあの時サルーを救えばよかったのかと考えても、最良の方法を提示することは難しいな…。なんだかきれいごとのようになってしまうよ。

そう思っていた時、映画の中ではオーストラリアに住む夫婦が現れてサルーの養父母になります。この夫婦が本当にすばらしい人格者で…。先に述べた「きれいごと」を机上の空論にせずに行って、サルーを大事に育てます。しかも彼らは体質的に子供が持てないわけではなく、「自分たちで子供をつくるより困っている子供をうちで育てよう」と決めたというのだからすごい。サルーはそこで何不自由なく育てられるのだけど、それでも故郷を思い返してしまう。いつもお兄ちゃんにねだっていたインドの揚げ菓子を口にするシーンがとても印象に残っています。憧れの揚げ菓子を食べたり、ウェットスーツを身に纏って海で楽しんだり、大学に進学して将来のために学んだり、清潔で安全な家があることさえも、故郷にいたら得られないものだけど、それでも自分のルーツは知りたいよなぁ…。

サルーが必死にノートパソコンを使って家を探すシーンは胸に迫るものがありました。あの頃の自分を助けてあげるかのように、自分が使えるようになったハードや知識を総動員して懸命に探して、様々な葛藤を経てついに家族を見付けるのだけど、それは決して幸福なだけのゴールではなくて、兄のグドゥがサルーがはぐれてすぐに亡くなってしまっていたということが辛い現実にも直面します。5歳のサルーが何度も名前を呼んでいた頃、もうグドゥは死んでしまっていたのだと思うと…。

美しい映像がとても印象深かった。上空から俯瞰で撮られた映像が多かったのだけど、それがGoogle Earthの画像とリンクしていくのがとてもよかった!タスマニア大自然コルカタの雑踏も懐かしい故郷も繋がっているんだなぁ…という感じで、そういうところも一貫性のある撮り方だったような気がします。

そして、サルーの幼少期を演じたサニー・パワールが素晴らしかったです。愛くるしくて元気な少年らしさに目を細めていたら、一人になってからの愁いを帯びた悲しげな眼差しがとてもせつなくて、ものすごい演技力でした。演じた当時は役と同じ5歳だったと聞いて本当に驚いた。前世は名優で強くてニューゲームしてるのかもしれない…と思ってしまうレベル。すごく魅力的な役者さんでした。どんな大人になるのか楽しみだし、子供の役は演じられる期間が本当に限られていると思うので、いろんな作品に出演してほしいなぁ。

ところで、インドでは年間8万人の子供が行方不明になっているのだそうで。サルーがギリギリのところで擦り抜けた様々な危機に飲み込まれてしまった子もたくさんいたのだろうなぁと思うとやるせない。

まったく感想とは関係ないのだけど、作中で「カルカッタ」と「コルカタ」を使い分けていた意図は何だったんだろう…?当時を知るサルーだけが「カルカッタ」と使い分けていたわけでもなかったような気がするし…と未だに気になっております。

 

「LION/ライオン~25年目のただいま~」オリジナル・サウンドトラック

「LION/ライオン~25年目のただいま~」オリジナル・サウンドトラック