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幽霊画展@全生庵

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谷中の全生庵にて毎年8月に行われるという幽霊画の展示へ行ってきました。このお寺を創建した山中鉄舟と親交の深かった落語家・三遊亭圓朝の墓があって、怪談噺の得意だった圓朝の蒐集していた幽霊画コレクションが寄贈されたのだとか。圓朝の命日である8月に「圓朝祭り」の一環と虫干しを兼ねて、毎年幽霊画を一般公開しています。

日暮里駅から蝉時雨の降り注ぐ谷中霊園を横目に歩くこと10分ほど。途中、海外からの旅行者の方がたくさんおりました。日暮里にこんなに外国人旅行者が!?って意外だったけど、成田からのアクセスはいいし日本的な風景だし、観光にちょうど良いのかもしれないなぁ。

 

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そんなこんなで到着。午前中とは言え日差しが強くてすでに汗だく…。先にお参りを済ませてからいざ入場!観覧料はわずか500円で、ほんとうにいいんですかというきもち。本堂の隣に設けられた会場(画像向かって左側)に足を踏み入れると、板の間の部屋の中にずらりと掛け軸が。ガラス等で隔たれることなく、そのまま展示されています。めちゃくちゃ至近距離でまじまじと見れちゃいます。これはすごい…!

以下、記憶に残っている作品の感想を備忘録代わりにつらつらと記しておきます。

■海坊主/歌川芳延
海にぽっかりと浮かぶ黒い海坊主。幽霊というより妖怪ですね。遠近法を用いてきっちり描かれた遠くの島と比べるとどこか漫画的でおまぬけな表情で、なんとも憎めない。怪異への畏怖の気持ちと親近感が入り混じったようなこの感じ、日本独特だなぁ。

■月に鵜図/今村紫紅
月に向かって鳴く3匹の鵜。黒々とした姿が可愛らしいのですが、亡き主人を想って月に向かって鳴いているそうです。そう思うと黒いくりくり眼がせつないものに見えてくる…。これもまた幽霊とは関係がないのでは…という気がしたのだけど、月に主人の姿を見ているのだとしたらある意味幽霊図なのかも。

■幽霊図/円山応挙
ふっくらとした女性の幽霊の図。しかしこちらの作品、応挙作だと確定したわけではないのだとか。この絵に「そもそも応挙は幽霊図を描いたという証拠はない」…というようなことが書かれていたのだけど、そうなの!?知らなかった…!幽霊と言えば応挙!などと思っていたので驚きました。ちょっと調べてみよう~。

怪談乳房榎図/伊藤晴雨
恐ろしい形相の男の絵。怪談乳房榎とは、圓朝作の怪談話なのだそうです(詳しくはこちら:怪談乳房榎 - Wikipedia)。伊藤晴雨は線の強弱や表情に藤田和日郎っぽさがあるなぁ…と常々思っているのだけど、藤田先生は伊藤晴雨がお好きだったりするのでしょうか。漫画家さんやアニメーターさんって伊東晴雨好き多いですよねえ。

■作品名不明/伊藤晴雨
5点並べて展示されていたのですが、説明がなくてモチーフが分からず…。おそらく、お菊さんと姑獲鳥は含まれていたかと。あと、中国っぽい服装の女性が蛙を使役しているような図柄もありました。繊細な線が美しくてとても良かった。伊東晴雨、好きだなぁ。

月岡芳年/宿場女郎図
今回一番観たかったのがこちら!展示されていない可能性もあるとのことなのでヒヤヒヤしていたのだけど、無事観れました。良かったー!ちなみに画号は大蘇。藤沢の妓楼で見掛けた病に罹った女郎を元に描いたという本図、「幽霊」ではなく生きている人間ではあるものの、病みついた人間が衰えていき人ならぬ存在になりつつある怖さ…みたいなものがありありと描かれていて、現実的な怖さがありました。落ち窪んだ瞳や骨と皮だけになった身体、そしてそんな身体にずしりと纏わりつくような着物の描き方が物凄い。というか、ほんとうに芳年作品をこんな間近で見られるなんて…。思わず匂いを嗅ぐという奇行に走ってしまった…笑

■幽冥無実之図/高橋由一
眠る女の背後にそっと佇む男の霊。しっとりと物哀しくてとても良い絵だなぁと思ったんですが、高橋由一ってあの鮭の絵で有名な高橋由一だったのですね!こんな幽霊画を描いていたなんて知らなかったです。どことなくモダンな雰囲気ですごく綺麗でした。

■髑髏図自画賛/三遊亭圓朝
圓朝の自筆とのこと。髑髏の上に書かれた和歌「見し夢の睡にかゝるは世のつねそうつゝのゆめになるそかなしき」がとても達筆!絵の方もくるんとした筆使いが描き慣れた感じで、噺家さんらしいユニークな雰囲気でなんともかわいらしい髑髏でした。

芳年暁斎、晴雨と好きな絵師の作品がこんなに間近に見れるとはなんという眼福…!ものによってはかなり退色してしまっていたり折り目が入ってしまっていたりで状態が良くないものもありましたが、それでもとても素晴らしい展示でした。お寺の中という独特の場所なのも独特の雰囲気があってとても面白かったです。真夏に幽霊画を見てひんやり過ごすのもなかなかオツなものですな。

帰りに御朱印をいただいて、ポストカード3点(宿場女郎図、怪談乳房榎図、髑髏図自画賛)を購入。会社のパーテーションのあまり目につかない場所にこっそり貼ろう~。

 

山岡鉄舟ゆかりの寺「全生庵」

 

■関連リンク

圓朝謎語り (徳間文庫)

圓朝謎語り (徳間文庫)

 

圓朝を知ったきっかけの本がこちらでした。江戸を舞台にした噺家ミステリ、とても面白いのでおすすめです。