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ダンケルク@TOHOシネマズ新宿


映画『ダンケルク』日本版予告編 1

 

■あらすじ
第二次世界大戦、連合軍の40万人の兵士たちはドイツ軍の猛攻によりフランス北端の港町・ダンケルクの浜辺に追いつめられていた。救助を待つトミーたち兵士の目の前で、救助にやってきた船はドイツ軍の爆撃により沈められていくばかりであった。一方、イギリスでは民間船を召集した救出作戦が行われようとしていた。ムーンストーン号の船長であるドーソンは自らダンケルクへ向かうことを決め、息子たちと共に船を出す。さらに、空ではイギリス軍パイロットたちが援護のため空を駆けていた。

 

※ネタバレ含みます。

 

何やら本作はIMAX以上でないと十分な鑑賞環境ではないとのことで、TOHO新宿のIMAXで鑑賞してみました。ベストなのは大阪の4Kらしいのですが、さすがに大阪までは行けない…!大迫力の映像、かつ周囲がシネフィルっぽい方々ばかりで観賞マナーがよくてめちゃめちゃ映画に入り込める最高の鑑賞環境でした。センキューTOHO…!

 

トミーたちによる防波堤での1週間、ドーソンたち民間船による海での1日、そして、パイロットのファリアたちの空かの1時間が時に時間を遡り、交錯させながら描かれていくのですが、これが素晴らしかった…!いくつもの物語が同時進行的に紡がれて行き、群像劇というよりひとりひとり、それぞれのグループに物語がありました。すごい。

 

登場人物たちの戦争に対するスタンスも皆違っていて、兵士たちは勇敢ではあるものの不安と恐怖に苛まされていたり、息子を失った経験のあるドーソンは後悔を抱いていたり、町で暮らすドーソンの次男たちはヒロイズムに憧れていたりする。誰か一人でも限定的な「主人公」がいたら彼ら一人一人の心情には気付けなかったのかもしれないので、やっぱりこの撮り方はすごい。

 

個人的にはドーソンに一番心惹かれるものがありました。飛行機乗りの息子を亡くしたドーソンが不時着したコリンズを必死に助けようとして、沈みゆく機体に向けて全力で船を進めた時の気持ちを考えるとぐっとくる。そして、ジョージは命を落としてしまって、彼が望んでいた通り「新聞に載るような英雄」になった。ピーターはそれを少し嬉しげに眺めているのだけど、その横にいるドーソンの表情は浮かない。若いピーターにはまだ分からないのかもしれないけれど、ドーソンは戦争での死のやるせなさを知っているんだよなぁ…。自分たちの世代の始めてしまった戦争が息子たち未来の世代の命を奪っていると気付いて、その上で一人でも救いたいと洋上に出た決意を思うともうだめです。泣く。

 

そして一番アツかったのが空の二人。スピッツファイアかっこよすぎだろう…!作中のドーソンの説明を受けて「ロールスロイスエンジンなんて格好良いなぁ」と思っていたのですが、もう後半はあのエンジン音が響く度に「スピッツファイアーーー!!!!」状態でした。後に知ったのだけど、TOHOの物販でフィギュアが売られていたらしくて鑑賞後に立ち寄っていたら危なかった。絶対に買ってた。

 

そしてギブソンが辛すぎる…。トミーたちは故郷に帰るために必死に前を向いていたけれど、ギブソンは故郷を捨てるために必死にならなければならなかったんだよなぁ…。どこかの誰かの軍服を着て、イギリス軍のふりをして言葉を噤んで、そうまでして生きたくて生きたくて伸ばした手が最後の最後で誰にも掬い上げてもらえなかったのだと思うととてもつらい。ギブソンはトミーたちを何度も助けてきたのに、やるせない。でもこれが戦争なんだよなぁ。つらい。

 

そしてこの作品、ラスト1秒の衝撃がすごかったです。様々な人々からの救いの末、トミーたちが無事に祖国に帰り着き電車に揺られるシーン。無事に母国へ帰還することができて、新聞ではチャーチルが兵士を鼓舞し、英国民たちも兵士を讃える…という光景はまさにハッピーエンド。高揚した様子のアレックスを見て、自分もそんな気持ちになった瞬間、そっと目を伏せるアレックスのショットが抜かれます。たった一秒にも満たないかもしれない、そのシーンだけ目にしたら何も心に残らないかもしれない、ごく一瞬のカットで、これは大団円なんかじゃないのだと気付かされる。あのヒヤリとする瞬間がとんでもなく恐ろしかった。

 

思えばこの物語は1940年が舞台で、第二次世界大戦が開戦してから1年しか経っていなくて、あと5年間もこの戦争は続きます。救われて帰還した兵士たちはまた戦場に行かねばならなくて、そこで命を落とす人もいたのだと思うと…。救出作戦は素晴らしかった。けれど、その先にもまだ戦争は続いていく。映画として描かれた先にも、まだ戦争は存在していると気付かされるような瞬間でものすごく怖かった。出来過ぎなくらい美しく描かれたファリアのシーン(でもあれはすばらしかった…)の後に、静かな現実を突き付けるようなラストでした。

 

…あまりにもすばらしくて思うがままに書き連ねてしまった。乱筆乱文すみません。ダンケルク素晴らしかったです。単純に「面白い」とは言えないのだけど、本当に素晴らしい映画でした。でもすぐに2度目は観たくない、そんな作品でした。映画を観てから眠れないなんて久し振りの体験でした。これはしばらく引き摺りそうです。

 

ダンケルク (ハーパーBOOKS)

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  • 作者: ジョシュアレヴィーン,武藤陽生
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