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切り裂き魔ゴーレム@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
1880年、ロンドン。貧民街で連続猟奇殺人事件が起こり、人々は犯人を「切り裂き魔ゴーレム」と呼び恐れていた。四人の容疑者が挙げられるが、容疑者の内の一名が毒殺され、その妻・リジーが夫殺しの疑惑で裁判にかけられることに。ゴーレム事件を担当することになったスコットランドヤードの警部補・キルデアが調査に乗り出すが…。

 

@ネタバレ含みます

 

未体験ゾーン2018の何本目だろう…6本目くらい?19世紀のロンドン、連続猟奇殺人事件、華やかなミュージックホール…と、華やかでありながらどこか鬱屈とした当時の独特の雰囲気と、その空気感に相応しい物語が素晴らしかったです。

 

切り裂きジャックの現れるほんの少し前という時代設定、さらには四人の容疑者には学者のカーク・マルクス、小説家のジョージ・ギッシング、役者のダン・リーノといった当時の著名人が名を連ねていて、偽史ものっぽくてワクワク感がすごい。ほんとうにこんな事件があったのかもしれないと思わせる虚構と現実の狭間のような空気感がすごく良い。

 

物語はキルデアが推理をするシーンと、リジーがダン・リーノにより見出され喜劇役者として舞台に立つ半生と共に描かれます。物語を追う内になんとなく犯人の目星はついてしまうのだけれど、それでも犯人が明らかになるシーンは鳥肌ものでした。絞首台に上がったリジーを助け出したキルデアが証拠として提出したのはリジーの夫の書いた手描きの台本。特徴のある「m」の書き方はゴーレムの筆跡そのものでした。あとは書類にリジーが文章をしたためれば無罪放免…というところで、「I am...」と書き始めた瞬間に凍りつくキルデア。笑みを浮かべるリジーはあの筆跡で記しました。「I am Golem」……っていう一連の流れ、これ本当にゾッとした。きれいにキメたなぁ…!

 

幼い頃から貧困と女性差別の中で生きてきたリジーが世間からの注目の中央に立つことができたのがこのゴーレムだったものの、キルデアはそれを世間に明さないことを選んだのがまた刺さる…。世間を沸かせた猟奇殺人気のゴーレムではなく、ただの夫殺しの妻として刑に処されることこそ、リジーにとっての何よりもの罰なのでした。執行人に最後の言葉を促されて、観客のいない絞首台から「Here we are again!!(またの登場!)」と舞台の登場時の決め台詞を叫ぶリジーが狂気に満ちていて物哀しくて、これは刺さる。すごい良い。

 

リジーの物語は終演を迎えるものの、残された者たちの物語がすこしだけ続きます。死に満ちたステージの上に立ち続けるダン・リーノがすごく良かった…。この人だけはリジーの本当の姿に気付いていたような気がするなぁ。母親が死んで自由を得たリジーが初めて演芸場に足を踏み入れた時にダン・リーノが歌っていた曲がエンドロール後半で流れるのですが、この曲を聞いた時のリジーが目を輝かせていた姿を思い出すと、美しい世界に目を輝かせていただけではなかったのだと気付かされてゾッとして、その余韻がすごく良かったです。こういうツイストがあるからエンドロールまで席を立ちたくないのだ…!

 

さらにこのエンドロールの後に「アラン・リックマンに捧ぐ」とあり、もしや…と思ったら、キルデア警部補役は当初アラン・リックマンが演じるはずだったのですね。同性愛者の噂を流される孤高の警部補…なるほどたしかにハマりそう。アラン・リックマンの演技でも観てみたかったなぁ。

 

切り裂き魔ゴーレム [DVD]

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 ■関連リンク

切り裂き魔ゴーレム

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原作本。原題が「Dan Leno & the Limehouse Golem」みたいなんだけど、もしやこれはダン・リーノが映画よりも描かれていたりするのだろうか。気になる。