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映画や本やおいしいものについて

高慢と偏見とゾンビ@新文芸坐

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■あらすじ
ゾンビが蔓延る18世紀のイギリス。田舎町に暮らすベネット家の五人姉妹はカンフーと剣を駆使してゾンビと戦う日々を送っていた。ある日、青年資産家であるビングリーの舞踏会に招かれ、次女のエリザベスは大富豪の騎士・ダーシーに出会う。高慢なダーシーに嫌悪感を抱くが、二人で戦う内に徐々に惹かれ合っていき…。

 
観逃がしていたところ、新文芸坐のお蔭で観れました!ありがたや~!同時上映の『ザ・ギフト』も面白かったし、二本立て名画座は本当にありがたい。

19世紀の名著『高慢と偏見』にゾンビ要素をプラス。何故足したのか。しかし、元からこういう設定なのではないかと思うほどによく馴染むゾンビ。当然のようにゾンビと戦う登場人物たち。違和感ゼロで話が展開していくのが面白過ぎた。

衣装がとても美しい!舞踏会に出かけるために五姉妹が着替えをするシーンで、ガーターベルトにナイフを仕込んでいく様が大変美しかったです。ひらひらとドレスを翻しながら剣とカンフーでゾンビを薙ぎ倒していくのが格好良かった。痺れる!そしてガールズトークに花を咲かせながらカンフーの組手をするシーンが秀逸。そしてカオス。しかし謎のしっくり感。

ストーリーはゾンビを除けば、反発し合いながらも惹かれ合って行く男女…という王道少女漫画的展開で、200年前の作品というのが信じられないほど。エリザベスとダーシーの皮肉めいた会話劇も面白かったです。そんな会話を交わしながらも殺る気まんまんに口撃と共に攻撃を交わしていてカオス。このやり取り、原作のままなのかな。隣にいたおじさん(おそらく原作読了済)がめっちゃウケてて羨ましかったです。これ、間違いなく原作を読んだ方が楽しめると思う。

ラザロ教会のラザロってラザロ徴候のラザロか!と今更ながら知りました。死んだ者が生き返る、というところからきていたのだな。

新文芸坐に行ったので食レポをします。この映画館、なぜか飲食が充実していて、ドリンクバーがあったり近所のアジアンダイニング「サグーン」提供のフードメニューがあったりと、まるで歌舞伎座のような観てよし食べてよしな環境なのであります。くいしんぼうの血が騒ぎます。

 

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本日いただいたのはこちらのサグーンロール。もちもちの生地にたっぷりの野菜と鶏肉が巻かれていてヘルシーに美味しい。そして手が汚れないので映画を観ながらでも食べやすい。わたしは幕間の10分間でぺろりと食べてしまったけども。チャーハンとカレーパンも気になるんだけど、食べやすさからいつもこちらを頼んでしまう。今回も美味しかったです!

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しかし裏を見てみると
_人人 人人_
>チャーハン<
 ̄Y^Y^Y^Y ̄
こんなうっかりさんなところもまた愛し。

 

高慢と偏見とゾンビ [Blu-ray]

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■関連作品

高慢と偏見(上) (光文社古典新訳文庫)

高慢と偏見(上) (光文社古典新訳文庫)

 

原作本はこちら。読んでから観ればよかった!

フリークス・シティ@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
人間・ゾンビ・ヴァンパイアの種族が暮らす町・ディルフォード。多少のいがみ合いはありながらも平穏に暮らしていたある日、エイリアンの急襲を受ける。四つ巴のバトルが起こる中、同じ高校に通う人間のダグ、ゾンビのネッド、ヴァンパイアのペトラの三人が立ち上がる。果たして三人は、町を救うことはできるのか?

 ※ネタバレ含みます

未体験ゾーンの映画たち5本目は、ドタバタ青春ホラーコメディ。いつもより少し狭いシアターだったものの、場内ほぼ満員でした。あらすじの時点でめちゃくちゃ面白そうだもんな…。

期待を裏切らない面白さでした。全編に漂うB級感とテンポのいいストーリー、ニヤリとする小ネタの数々、そしてラストの謎の感動。ご都合主義さえも良いエッセンス!トンデモ設定なのに地方都市あるあるやアメリカのスクールカーストあるあるもコミカルに描いていて上手いなぁ。軽く観られてスカッとできる良作です。

三人が暮らすのはパッとしない小さな町で、名物は謎の肉を使ったサンドイッチ。高校生活も家族との関係もあまり上手く行っていない。何から何までショボい。そんな三人だけど、町のピンチを前になんとか守ろうと奮闘して成長していくのがとても良かった。三人ともそれぞれ魅力的なのだけど、ゾンビなのにブレインポジ(※食糧的な意味ではなく)のネッドくんがソーキュートでした。

後半のシーンでダグが熱弁を揮うもいまいち同意を得られなかったのに、ダグパパが突如として始めた\U....USA!USA!USA!/に次々に乗っかって\USA!USA!USA!/と一気に士気を高めるくだりが最高でした。これがアメリカノリ…!!!あと最後の最後の決戦での「なんであいつドイツ訛りなんだよ…」のくだりにも笑った。

何か見たことがある…と思っていたら、ビッチちゃん役の人(役名忘れてしまった…)がハイスクール・ミュージカルのガブリエラ役の人だった!あの頃から美人さんだったけどますます美しくなってー!!と親戚のおじさんみたいなきもちになってしまいました。

わりとサクッと「あっごめん殺っちゃった」「あっごめん食べちゃった」みたいなノリで罪のない一般人が死ぬので、そこを笑いに昇華できない人にはオススメできないのだけど、そこらへんをこういうもんだと割り切って流せる人であればオススメしたいです。普通に面白い。

 

アイヒマンを追え!ナチスが最も畏れた男@ヒューマントラストシネマ有楽町

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■あらすじ
1950年代後半のフランクフルト。検事長のバウアーは、ナチスによる戦争犯罪の告発を行うべく奔走していたが、法律・政治関係者は戦時中にナチスに関係していた者が多く、捜査を行うことに抵抗を示す。捜査は難航を極めていたが、ある日、アイヒマンがブエノスアイレスに潜伏しているという情報を入手する。ドイツの機関では捜査を行うことができないと判断したバウアーは、イスラエルの諜報機関・モサドに情報提供することを決意する。

※ネタバレ含みます

時系列的には「アイヒマン・ショー」の前のお話。アイヒマン逮捕までの一連の流れを描いています。ドイツ政府や検事局に勤める人々はその多くが戦争関係者であり、戦争犯罪を直視することを忌避する。真実から目を逸らしたまま終戦から十年以上が経った1950年代の後半、未だナチスをドイツ国民の手で裁くことを諦めない者がいた。そんなバウアー検事による執念の物語です。

バウアーが完璧な英雄ではなく、過去には政治犯として収容所に入れられ、転向書に署名をしナチスに屈した経験があり、さらには当時は法律で禁じられていた同性愛者であるという面を描いていたのが良かった。一度は砕けた人でも、誇りを取り戻して自分を律することができるし、マイノリティに発言権がないはずがないのだとバウアー自身が行動で示してくれました。

若者との討論番組でドイツの誇りは何かと問われたバウアーの答えが印象的。「森や山は誇りではない。我々が作ったものではないからだ」「ゲーテアインシュタインも違う。彼らは偉大だが、それは彼ら個人のものであり、ドイツが偉大なわけではない」「我々の誇りは一人一人が何を考えるか、そこにある」というようなことを返すのだけど、そんな言葉にも自国の未来を見据える気持ちが垣間見えてとても良かった。

骨太な物語や登場人物はもちろん、それらを彩る音楽が素晴らしかった。哀愁漂う少しレトロな音楽がマッチしていて格好良かったなぁ。そして、甘く切なく歌い上げる歌姫ちゃんがめちゃくちゃに美しかった…。衣装やその着こなしにも性格が出ていたりして、とても面白かった。バウアーの後ろ髪がかわいかったです。笑

完全なフィクションというわけではなく、カールは実在の人物ではない模様。でもバウアーとカールの絆はとても素晴らしかった。カールのしたことは結局は裏切りで完全にアウトなのだけど、ようやく本当の自分をさらけ出せる相手に出会えた喜びを思うと、あそこで店に行ってしまったことは責められない気がする…。カールはあの後どうなったんだろう。フィクションの人とは言えこの映画の中では確かに存在していたので、とても気になってしまいます。

 
■関連リンク

 本作の後、アイヒマンがどのように裁かれたのかはこちらで描かれています。

 

 こちらもバウアーを描いた作品の模様。こちらも観てみたいなぁ。

オリエント急行の殺人/アガサ・クリスティ

 

 

■あらすじ
イスタンブールとカレーを繋ぐ国際列車・オリエント急行。様々な職業や国籍の人々が乗り合わせていたが、雪で立ち往生した車内で乗客の一人である老富豪が刺殺される。死体には12か所もの刺し傷があり、強い怨恨による犯行かと思われた。しかし、乗客たちのほとんどは被害者と面識はなく、全員にアリバイがあった。一体、犯人は誰なのか。偶然乗り合わせていた名探偵ポアロが推理に乗り出す。

 
※ネタバレ含みます

kindleにて。1934年発表の作品。「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」とともに年末に行われていたkindleアガサ・クリスティセールで購入したもの。一度読んだ本はなかなか手に取らないのだけど、こういうセールがあると嬉しいなぁ。

国籍も職業も異なる他人同士が乗り合わせる中で起こった殺人事件。被害者はアメリカで起こった誘拐殺人事件「アームストロング事件」の主犯であることが判明する。強い恨みを抱かれていたことは間違いないが、果たして犯人は一体誰なのか…。ポアロの推理の結果、なんと乗客全員(正確には13人中12人)が犯人であり、それぞれが運転手や家庭教師や料理人等、アームストロング家に縁のある人々であったことが判明。それぞれ異なる強さや利き手で行われていた12か所の刺し傷は、全員が一度ずつ刺したものであったのです。…という、「アクロイド殺し」の語り手=犯人に告ぐ超予想外の犯人なのでした。

天誅とは言え殺人は殺人…と思いきや、ポアロは推理の際に二つの可能性を示唆します。ひとつは、前述の全員が犯人であると言う推理。もう一つは、犯人は停車中の電車から逃走したと言う推理。これまでのやり取りを目にしてきたコンスタンティン医師とポアロの友人である国際寝台車会社の重役・ブックにどちらだろうかとわざと問いかけて、二人とも後者を選ぶのです。謎は解けても、真実は乗り合わせた人々の胸の内に…。というエンディング。トリックに続きこちらも賛否両論ありそうですが、わたしは好きでした。

登場人物が大勢なので何が何やら…になるかと思いきや、とてもキャラが立っているので混同することもなく楽しめました。ドラゴミロフ公爵夫人がとっても魅力的…!そしてハバード夫人がなんとも悲しい。本作は中年女性になんとも言えない深みがあって良かったなぁ。

「イタリア人だからアイツは怪しい」とか「これだからアメリカ人は」と人種括りの皮肉が当然のように横行しているのもこの時代ならでは。このやりとりは後世に至るまで変えないで欲しいなぁ。そういう表現はそれらの時代特有のものとして大らかな気持ちで受け止めたいなぁと思うのです。

著者の孫によるまえがきで述べられていた通り、アームストロング事件はこの事件が元になっていた模様。結局事件はあやふやなまま終わってしまったようで、現実の事件はなんと後味の悪いものかと…。

 

■関連リンク
www.belmond.com今なお走るオリエント号。一度でいいから乗ってみたいなぁ。殺人事件は嫌だけども…。

アブノーマル・ウォッチャー@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
新居の下見に向かった新婚夫婦のライアンとクレア。不気味で異臭のする大家に不信感を抱いたが、念願の庭付き一戸建てを前に引っ越しを決定する。しかしその家はいたるところに大家により監視カメラが仕掛けられていた。カメラに気付くことなく日々を営む二人だったが、大家の行動は次第にエスカレートし…。


※ネタバレ含みます。

未体験ゾーンの映画たち3本目。じじいが新婚夫婦をおはようからおやすみまで熱く見守るサイコホラー。「キモい!」と「怖い!」が交互に押し寄せ、常に不快と不愉快と不安に支配され続ける90分間でした。

へ、変態だー!!!というレベルでは済まされない方向にぶっとんでいた。大家が徐々に箍が外れ常軌を逸していき、もう誰にも止められない…となる後半の盛り上がりも良かったんだけど、序盤から中盤にかけての不気味さと執拗さが最高でした。特にじじいが新妻の歯ブラシを舐めてから頬にゾリゾリするシーン、最悪ですね!今まで観たどんなグロい映画より不快指数が高かった。そんな妙な匂いに気付いた妻に対する夫の「人間の口の匂いなんてそんなもんだよ」という発言がアホすぎて和んだ。そんなわけがあるか。そして「そうなんかな…?」みたいな顔をする妻。そんなわけがあるか。

そんなアホ夫は妊娠中の妻の留守を狙って勤務先の美人アシスタントと浮気を開始。確かにクレアも我儘勝手なところはあったけれども、これは…と思っていたら、そんなところも執拗に見つめ続けていた大家。一体何を考えているのか分からないまま、徐々にアグレッシブに行動し始めます。家に訪れた不倫相手に襲いかかり、監視先の家の中央にある秘密の防音室に監禁。ここで初めて他者に対する攻撃性をあらわにするのですが、意外と動けるタイプであることが判明しめちゃくちゃびびった。
襲いかかる大家「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
襲われる不倫相手の女「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
観ていた私「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアア」
陰からじっとり見つめるタイプじゃないのかよ!!!!

なんだかんだで旦那が頑張って妻とお腹の中の子を助けてハッピーエンドでしょ?…と思ったのですがそんなはずはなかった。最悪のさらに先のラストからの爺のいい笑顔でフィニッシュです。結局大家の狙いが最後までよくわからなかったのだけど、お腹の子供を守らねば?助けねば?俺のもの?という感情が歪んだ形で現れたということ…?この部分、あまり言及されていなかったように思うんだけどどうだっけな。はっきりしないので目的がわからなくて余計に怖い。

後味の悪さ含め、最初から最後までやりきってくれたなぁ!ちくしょう!最悪だ!(※褒め言葉)

 

アブノーマル・ウォッチャー [DVD]

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書楼弔堂 破暁/京極夏彦

 

文庫版 書楼弔堂 破曉 (集英社文庫)
 

■あらすじ
御一新から四半世紀を迎えた明治二十年代半ば。元旗本の高遠は、雑木林に囲まれた別宅で日々無為に過ごしていた。ある日、ひょんなことから近所に奇妙な書舗を見つける。書楼弔堂と名乗るその店は、古今東西の様々な書物が所蔵されており、店の主人はここは本の墓場であると言う。そんな奇妙な本屋に、高遠と同じ時代を生き、様々な悩みを持つ人々が探書に訪れる。

【1】探書壱 臨終
近所を散歩していた高遠は、軒に「弔」の一文字が書かれた半紙が貼られた奇妙な建物を見つける。おそるおそる足を踏み入れてみると、そこは夥しい数の本の納められた本屋だった。圧倒される高遠の前に、幽霊を見たのだという老人が現れる。そんな老人に店主が差し出した本とは。

【2】探書弐 発心
郵便局の前でおかしな書生に出会った高遠。著名な作家に師事しているものの、先進的な作風の師を持ちながら古い物とされている江戸会談を愛する自分に負い目を感じているのだと言う。そんな書生を弔堂へ導く高遠。書生にはどんな本が差し出されるのか。

【3】探書参 方便
以前勤めていた煙草会社が店を畳むことになり、送別会がてら元雇い主である山岡と共に女義太夫を観に行った高遠。帰り道に山岡の知人である矢作に出会い、矢作が心酔している師の話を聞かされる。弔堂を訪れると、偶然にも山岡の師である人物に遭遇する。

【4】探書肆 贖罪
近所の鰻屋を訪れた高遠は、そこで身なりのいい老人と、その老人に影のように付き従う奇妙な男に出会う。弔堂に行きたいという二人を案内した高遠だったが、老人はその男は死んでいるのだと言う。男の身に一体何があったのか。そして男の正体とは。

【5】探書伍 闕如
顔馴染みの書店員から高遠に会いたがっている作家がいると聞かされる。その作家は奇遇にも高遠が最近読んで感銘を受けた本の書き手だった。探している洋書があり、弔堂へ行きたいという作家の案内人をを買って出る。探していた本に巡り合えて喜ぶ作家だったが――。

【6】探書陸 未完
ひょんなことから猫を預かることになった高遠だったが、弔堂に本を売る客が猫を引き取ることに。猫の引き渡しついでに本の積み下ろしを手伝うことになった高遠。向かった先は、神社だった。依頼人の胸に秘めた思いとは。


※ネタバレ含みます

12月に発売されていたなんて知らなかった…!いつもkindleばかりなのですが、久し振りに紙の本です。京極さんの本は紙で読みたい。相変わらず奇数ページできちんと文章が終わっているページデザインはお見事。文庫でここまでするのは凄いなぁ。見惚れてしまう。

弔堂を訪れるのはいずれも幕末~明治初期に活躍した文化人や政治家など実在の人物。しかし、名前が明かされるのは物語が終わりを迎える時です。これは誰だろう?と楽しむのが面白かったのですが、本書の公式サイトではドーンと書かれていて驚いた。これを最後に目にするからいいような気がするんだけど、どうなのでしょう。好きな作家さんの本は公式情報さえも入れずにそのまま読むのが一番いいなぁと改めて思った次第。一話目から圓朝月岡芳年が登場して、芳年好きとしてはたまりませんでした。

フォークロアのように含みを持たせるような終わり方が、余韻があってとても良い。人の不安や焦燥を描いていながらも、最後にはそこにスッと光明が差すのも良かったです。歴史に名を残したあの人もこの人も、ただただ邁進して功績を遺したわけではなく、こんな風にぐるぐると思い悩んだりしたのかもしれないなぁなどと思ったり。

「この世に無駄な本はない」という言葉は本好きとしてはとても嬉しかった。本に貴賤はないんですよ…ほんとに…。ラノベも絵本も料理本にも情報は等しく存在していて、何かしらの感情を喚起させられると思うんです。あとこの作品では出版の移り変わりなんかも描いていて、そのあたりも面白かった!

同著者の他のシリーズのキャラクターも登場し、作者のファンとしても楽しめました。3話目の「方便」では巷説シリーズの不思議巡査が登場し、井上圓了に師事しているという設定。六話目の「未完」で登場する中禅寺輔氏は、どうやら百鬼夜行シリーズの中禅寺秋彦と関係がありそう。世代的に祖父なのでしょうか。その他、由良伯爵なんかも登場して、あちらのシリーズのファンとしても楽しめました。猫は石榴の祖先だったりして…?と思ったんですが、そこはインタビューで否定されておりました。さすがにないかぁ。

いわゆる高等遊民の高遠の気ままな暮らしが羨ましかった…。本を読んで無為に過ごすなんて最高の贅沢だと思うのだけど、そんな高遠もモヤモヤとした不安を抱きながら過ごしているようで、人間生きている限り悩みは尽きないのだなぁなどと思ってしまった。結局彼がどうなったのかは描かれていないけれど、「これで良し」と思えるような人生を歩んでいてくれたらいいなぁ。何かすごいことをしたり生み出したりして結果を残すだけが人生ではないと思うし、存在していれば人生だし、高遠にはそんな風に生きて欲しい…などと勝手ながら思ったり。

高遠が狂言回しとなるのはこの「破暁」まで。自作の「炎昼」は若いお嬢さんが語り手になるようです。小泉八雲柳田國男あたりが登場してくれたりしないかなぁ…と密かに期待しつつ、文庫化待ち。でも我慢できずにkindleで分冊を買ってしまいそう…笑。

■関連リンク

www.shueisha.co.jp公式サイト。各話で取り上げられる登場人物について明記されていますが、知らない方が楽しめる気がします。

www.sinkan.jp本作に関するインタビュー。これ面白い。

以下、登場した人物のwikiをメモがてら貼っておきます。

月岡芳年 - Wikipedia

泉鏡花 - Wikipedia

井上円了 - Wikipedia

勝海舟 - Wikipedia

岡田以蔵 - Wikipedia

巌谷小波 - Wikipedia

ヒトラー最後の代理人@ヒューマントラストシネマ渋谷

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■あらすじ
終戦後、アウシュビッツの所長をしていたルドルフ・フェルデナント・ヘスの取り調べをするよう命じられたポーランドの判事・アルバート。収容所での出来事を淡々と語るヘスを前に、アルバートは「誰か止めなかったのか」と問いかける。


※ネタバレ含みます

「未体験ゾーンの映画たち2017」2本目。狭い取調室で対峙して淡々と語るシーンがほとんどを占める静かな映画。ストーリーにあまり起伏はなく、ヘスが口を噤んで手を焼くこともなく、本当に淡々と進行していきます。驚くほど静かな映画なのだけど、そんな無口な中にもアルバートの感情のゆらぎが滲み出ていた気がします。

ネタバレは避ける派なのだけど、今回はあまりにも前知識がなかったので事前にwikiを見ておきました。しかし、「ルドルフ・ヘス」と聞いてこっちのヘス(副総統)かと思っていたら、こっちのヘス(アウシュビッツ所長)でした。副総統のページに「ヒトラーの代理人」なる著書があったのですっかり勘違いしていたのですが、観ている内に違うぞ…と気付いて、上映後に改めて色々と検索した次第。お恥ずかしや。

BGMのほとんどない静かな映画だったのですが、アルバートが立ち寄ったバーで流れるピアノの月光の調べが印象的。夜、月明かりの中でヘスが手記を書き残すシーンとリンクするようでした。手記の内容はwikiにあるこちらの内容なのかと思われます。

「この命令には、何か異常な物、途方もない物があった。しかし命令という事が、この虐殺の措置を、私に正しい物と思わせた。当時、私はそれに何らかの熟慮を向けようとはしなかった。私は命令を受けた。だから実行しなければならなかった。」

「軍人として名誉ある戦死を許された戦友たちが私にはうらやましい。私はそれとは知らず第三帝国の巨大な虐殺機械の一つの歯車にされてしまった。その機械もすでに壊されてエンジンは停止した。だが私はそれと運命を共にせねばならない。世界がそれを望んでいるからだ。」

「世人は冷然として私の中に血に飢えた獣、残虐なサディスト、大量虐殺者を見ようとするだろう。けだし大衆にとってアウシュヴィッツ司令官はそのような者としてしか想像されないからだ。彼らは決して理解しないだろう。その男もまた、心を持つ一人の人間だったということを。彼もまた悪人ではなかったということを。」

wikipediaルドルフ・フェルディナント・ヘス」より 2016年6月25日 (土) 12:00 (UTC


「職務を遂行しただけ」というヘスと、上官からの命令に従って尋問を続けるアルバートとの違いは何なのかとふと思ってしまう。多分それはアルバート自身も感じていて、尋問の傍らに人との触れ合いを求めたりしたのではないかなぁ…。馬しか救いを求める相手がいなかったヘスとは違うのだと確認するかのように見えました。今までも何度も訴えられてきた言葉だけど「誰もがナチスのような集団になりえる」というのを、改めて思い出した次第。

エンドロールに響く電車の音は、あのアウシュビッツに続く線路なのではないかと思ったのだけど、どうだろう?誰しもあそこに向かってしまう可能性があるという警鐘のようにも聞こえて、なんともズシンと重いエンディングとなりました。

ヒトラー 最後の代理人 [DVD]

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