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クライマーズ・ハイ/横山秀夫

 

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

 

 ■あらすじ
1985年、御巣鷹山日航123便が墜落する。北関東新聞の記者・悠木は日航全権デスクに任命される。未曾有の惨事に手一杯になり、趣味の登山の約束をしていた同僚の安西との約束を反故にしてしまう。しかし、谷川岳に向かったはずの安西は夜の歓楽街で倒れ、意識不明の植物状態となって病院に搬送されていた。安西の身に一体何があったのか。そして、悠木は全権デスクの任務を完遂することができるのか。

誰もが知るであろう日航123便墜落事故を描いた作品。事故発生から状況が刻一刻と変わる中での報道の最前線の様子と、当時果たせなかった谷川岳登攀に再び挑む現在の様子が交錯するように描かれて行きます。

まだ携帯電話もない時代、情報は自分自身の足と目で得るしかなく、記者たちは深夜の山を真実を求めてひたすらに歩く。状況は刻一刻と変わって行き、事態が最悪の方向へ向かっていく中、凄惨な墜落現場を目にしてギリギリの精神状態でも記事を書き上げる記者の執念には鳥肌が立つほど。現場を見た者にしか理解できない感情というのは間違いなくあると思う。作者も御巣鷹山に取材に訪れた経験があるのだそうです。

新聞社の人々の功名心や矜持が巧みに描かれています。記者だけでなく、販売部や営業部の人々の矜持も描かれていて、会社モノとしてもとても面白く読めました。それぞれがそれぞれの仕事へのプライドがあって、それぞれの時代を生きてきたのだと思うと、完全に正しい人も完全に間違っている人もいないな、と思う。事故現場を冒涜するような行為をした登場人物がいて、それはもちろん非難されるべきだし許されるべきでないと思うのだけど、彼の半生を見るとあまりに悲しい。

本文中に「御巣鷹山が未曾有の惨事を引き受けたのだ」と言うような記述があったのだけど、その一文がすごく良かったなぁ。現在パートの登攀の先にどのような光景が見えるのか手に汗握って読み進めました。面白かった。事故現場の報道というとあまり良い印象がないというのが正直なところだったのだけど、本作を読んで少しだけ見方が変わった気がします。