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映画や本やおいしいものについて

完璧な病室/小川洋子

 

完璧な病室 (中公文庫)

完璧な病室 (中公文庫)

 

 

■あらすじ

【1】完璧な病室
21歳にして不治の病に侵された弟を毎日見舞う「わたし」。病室にいる間は心穏やかに過ごせることに気付くが、最後の瞬間は徐々に近付いて来ていた。

【2】揚羽蝶が壊れる時
痴呆が進んだ祖母・さえを施設へ預けた奈々子。さえのいない家に違和感を感じながらも恋人と過ごしていたが、やがて変化が訪れ…。

【3】冷めない紅茶
学生時代の同級生の葬儀でK君と再会した「わたし」。Kくんの住まいに正体され、Kくんの妻が母校の図書館の司書であったことを知る。Kくんとその妻の関係に、「わたし」は徐々に魅了されていく。

【4】ダイヴィング・プール
両親の教会が営む孤児院で孤児たちと暮らす彩。同じ年の純に密かに恋心を寄せながらも、徐々に残酷な想いに憑りつかれはじめ…。

※ネタバレ含みます

kindleにて。デビュー作「揚羽蝶が壊れる時」含む初期短編集。物語と詩の間のような、不思議な世界が4編。物語というにはあまりに詩的で、詩と言うにはあまりに生々しい。特に食べ物が朽ちて行く表現がなんとも言えないほどリアル。淡々とした口調で生温さやぬめりを伝えてくるものだから、よりいっそう凄みがあってゾッとした。4作品ともに、そういう淡々とした狂気や女の情念みたいなものが籠められていた気がする。

「完璧な病室」では食べ物の描写が特に顕著で、夫の食べるビーフシチューと自分の体内から摘出した嚢胞を重ね合せるところや、弟が食べきれずに捨てられた食べ物が朽ちて行く様にゾワッとしてしまう。自分の嚢胞に似たシチューを食べる夫を眺めながら、食べることができなくなっていく弟を清らかなものとして見ていくあたり、少しずつ狂い始めているというか、静かなる狂気というか…。

揚羽蝶が壊れる時」は元は大学時代の卒業制作で執筆したものらしいのだけど、モラトリアムの終了を表しているのかなぁ。自分を庇護する祖母は老い、自分の身体に新しい命が宿り…という感じなのだろうか。痴呆の進むさえと二人で暮らす内、狂っているのはさえなのか、はたまた自分なのかと考え始めてしまうあたり、正常とそうでない状態の境界があやふやで怖かった。

「冷めない紅茶」は個人的に本作で一番良かったです。K君も司書もあちら側の人だったのかなぁ。ところでこの恋人の名前が「サトウ」なのは紅茶と関係があるのだろうか。サトウを徐々に疎ましく思うくだり、特に口の中を見せられて嫌悪感を示すシーンが印象的。それまでとくに何も思っていなかったのに坂道を転がるように何もかも受け付けなくなってしまうことってあるよねぇ…。余韻のあるラストもとてもよかった。収録順、これが一番最後だったらよかったのになぁ。

「ダイヴィング・プール」では主人公・彩が両親の営む孤児院で孤児たちと一緒に育てられながらも、里親の元へ引き取られて行く孤児の中でいつまでもそこに残り続けるうちに歪んでいく様を覗き見しているような不思議な心地で読み進めました。嗜虐的な嗜好に目覚めて、それを小さな子供に対して淡々と実行していく静かなる狂気がとても怖い。

久し振りに小川洋子のwikiを見てみたのだけど、初期作品だけあって、どの物語にも作者の半生が色濃く出ていたような気がする。目を通していると、見覚えのあるワードがいくつかあって興味深い。