■あらすじ
1950年代後半のフランクフルト。検事長のバウアーは、ナチスによる戦争犯罪の告発を行うべく奔走していたが、法律・政治関係者は戦時中にナチスに関係していた者が多く、捜査を行うことに抵抗を示す。捜査は難航を極めていたが、ある日、アイヒマンがブエノスアイレスに潜伏しているという情報を入手する。ドイツの機関では捜査を行うことができないと判断したバウアーは、イスラエルの諜報機関・モサドに情報提供することを決意する。
※ネタバレ含みます
時系列的には「アイヒマン・ショー」の前のお話。アイヒマン逮捕までの一連の流れを描いています。ドイツ政府や検事局に勤める人々はその多くが戦争関係者であり、戦争犯罪を直視することを忌避する。真実から目を逸らしたまま終戦から十年以上が経った1950年代の後半、未だナチスをドイツ国民の手で裁くことを諦めない者がいた。そんなバウアー検事による執念の物語です。
バウアーが完璧な英雄ではなく、過去には政治犯として収容所に入れられ、転向書に署名をしナチスに屈した経験があり、さらには当時は法律で禁じられていた同性愛者であるという面を描いていたのが良かった。一度は砕けた人でも、誇りを取り戻して自分を律することができるし、マイノリティに発言権がないはずがないのだとバウアー自身が行動で示してくれました。
若者との討論番組でドイツの誇りは何かと問われたバウアーの答えが印象的。「森や山は誇りではない。我々が作ったものではないからだ」「ゲーテもアインシュタインも違う。彼らは偉大だが、それは彼ら個人のものであり、ドイツが偉大なわけではない」「我々の誇りは一人一人が何を考えるか、そこにある」というようなことを返すのだけど、そんな言葉にも自国の未来を見据える気持ちが垣間見えてとても良かった。
骨太な物語や登場人物はもちろん、それらを彩る音楽が素晴らしかった。哀愁漂う少しレトロな音楽がマッチしていて格好良かったなぁ。そして、甘く切なく歌い上げる歌姫ちゃんがめちゃくちゃに美しかった…。衣装やその着こなしにも性格が出ていたりして、とても面白かった。バウアーの後ろ髪がかわいかったです。笑
完全なフィクションというわけではなく、カールは実在の人物ではない模様。でもバウアーとカールの絆はとても素晴らしかった。カールのしたことは結局は裏切りで完全にアウトなのだけど、ようやく本当の自分をさらけ出せる相手に出会えた喜びを思うと、あそこで店に行ってしまったことは責められない気がする…。カールはあの後どうなったんだろう。フィクションの人とは言えこの映画の中では確かに存在していたので、とても気になってしまいます。
■関連リンク
本作の後、アイヒマンがどのように裁かれたのかはこちらで描かれています。
こちらもバウアーを描いた作品の模様。こちらも観てみたいなぁ。