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映画や本やおいしいものについて

書楼弔堂 破暁/京極夏彦

 

文庫版 書楼弔堂 破曉 (集英社文庫)
 

■あらすじ
御一新から四半世紀を迎えた明治二十年代半ば。元旗本の高遠は、雑木林に囲まれた別宅で日々無為に過ごしていた。ある日、ひょんなことから近所に奇妙な書舗を見つける。書楼弔堂と名乗るその店は、古今東西の様々な書物が所蔵されており、店の主人はここは本の墓場であると言う。そんな奇妙な本屋に、高遠と同じ時代を生き、様々な悩みを持つ人々が探書に訪れる。

【1】探書壱 臨終
近所を散歩していた高遠は、軒に「弔」の一文字が書かれた半紙が貼られた奇妙な建物を見つける。おそるおそる足を踏み入れてみると、そこは夥しい数の本の納められた本屋だった。圧倒される高遠の前に、幽霊を見たのだという老人が現れる。そんな老人に店主が差し出した本とは。

【2】探書弐 発心
郵便局の前でおかしな書生に出会った高遠。著名な作家に師事しているものの、先進的な作風の師を持ちながら古い物とされている江戸会談を愛する自分に負い目を感じているのだと言う。そんな書生を弔堂へ導く高遠。書生にはどんな本が差し出されるのか。

【3】探書参 方便
以前勤めていた煙草会社が店を畳むことになり、送別会がてら元雇い主である山岡と共に女義太夫を観に行った高遠。帰り道に山岡の知人である矢作に出会い、矢作が心酔している師の話を聞かされる。弔堂を訪れると、偶然にも山岡の師である人物に遭遇する。

【4】探書肆 贖罪
近所の鰻屋を訪れた高遠は、そこで身なりのいい老人と、その老人に影のように付き従う奇妙な男に出会う。弔堂に行きたいという二人を案内した高遠だったが、老人はその男は死んでいるのだと言う。男の身に一体何があったのか。そして男の正体とは。

【5】探書伍 闕如
顔馴染みの書店員から高遠に会いたがっている作家がいると聞かされる。その作家は奇遇にも高遠が最近読んで感銘を受けた本の書き手だった。探している洋書があり、弔堂へ行きたいという作家の案内人をを買って出る。探していた本に巡り合えて喜ぶ作家だったが――。

【6】探書陸 未完
ひょんなことから猫を預かることになった高遠だったが、弔堂に本を売る客が猫を引き取ることに。猫の引き渡しついでに本の積み下ろしを手伝うことになった高遠。向かった先は、神社だった。依頼人の胸に秘めた思いとは。


※ネタバレ含みます

12月に発売されていたなんて知らなかった…!いつもkindleばかりなのですが、久し振りに紙の本です。京極さんの本は紙で読みたい。相変わらず奇数ページできちんと文章が終わっているページデザインはお見事。文庫でここまでするのは凄いなぁ。見惚れてしまう。

弔堂を訪れるのはいずれも幕末~明治初期に活躍した文化人や政治家など実在の人物。しかし、名前が明かされるのは物語が終わりを迎える時です。これは誰だろう?と楽しむのが面白かったのですが、本書の公式サイトではドーンと書かれていて驚いた。これを最後に目にするからいいような気がするんだけど、どうなのでしょう。好きな作家さんの本は公式情報さえも入れずにそのまま読むのが一番いいなぁと改めて思った次第。一話目から圓朝月岡芳年が登場して、芳年好きとしてはたまりませんでした。

フォークロアのように含みを持たせるような終わり方が、余韻があってとても良い。人の不安や焦燥を描いていながらも、最後にはそこにスッと光明が差すのも良かったです。歴史に名を残したあの人もこの人も、ただただ邁進して功績を遺したわけではなく、こんな風にぐるぐると思い悩んだりしたのかもしれないなぁなどと思ったり。

「この世に無駄な本はない」という言葉は本好きとしてはとても嬉しかった。本に貴賤はないんですよ…ほんとに…。ラノベも絵本も料理本にも情報は等しく存在していて、何かしらの感情を喚起させられると思うんです。あとこの作品では出版の移り変わりなんかも描いていて、そのあたりも面白かった!

同著者の他のシリーズのキャラクターも登場し、作者のファンとしても楽しめました。3話目の「方便」では巷説シリーズの不思議巡査が登場し、井上圓了に師事しているという設定。六話目の「未完」で登場する中禅寺輔氏は、どうやら百鬼夜行シリーズの中禅寺秋彦と関係がありそう。世代的に祖父なのでしょうか。その他、由良伯爵なんかも登場して、あちらのシリーズのファンとしても楽しめました。猫は石榴の祖先だったりして…?と思ったんですが、そこはインタビューで否定されておりました。さすがにないかぁ。

いわゆる高等遊民の高遠の気ままな暮らしが羨ましかった…。本を読んで無為に過ごすなんて最高の贅沢だと思うのだけど、そんな高遠もモヤモヤとした不安を抱きながら過ごしているようで、人間生きている限り悩みは尽きないのだなぁなどと思ってしまった。結局彼がどうなったのかは描かれていないけれど、「これで良し」と思えるような人生を歩んでいてくれたらいいなぁ。何かすごいことをしたり生み出したりして結果を残すだけが人生ではないと思うし、存在していれば人生だし、高遠にはそんな風に生きて欲しい…などと勝手ながら思ったり。

高遠が狂言回しとなるのはこの「破暁」まで。自作の「炎昼」は若いお嬢さんが語り手になるようです。小泉八雲柳田國男あたりが登場してくれたりしないかなぁ…と密かに期待しつつ、文庫化待ち。でも我慢できずにkindleで分冊を買ってしまいそう…笑。

■関連リンク

www.shueisha.co.jp公式サイト。各話で取り上げられる登場人物について明記されていますが、知らない方が楽しめる気がします。

www.sinkan.jp本作に関するインタビュー。これ面白い。

以下、登場した人物のwikiをメモがてら貼っておきます。

月岡芳年 - Wikipedia

泉鏡花 - Wikipedia

井上円了 - Wikipedia

勝海舟 - Wikipedia

岡田以蔵 - Wikipedia

巌谷小波 - Wikipedia